【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

換価遺言により市区町村に特定遺贈する場合の相続税・所得税の取扱い

相続税専門税理士の富山です。

今回は、換価遺言により市区町村にお金を渡す場合の税務上の取扱いについて、お話します。

出典:TAINS(相続事例707722)(一部抜粋加工)
東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官(令和6年7月作成)
「資産税質疑事例集」


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換価遺言とは?

遺言で財産を渡す場合に、相続財産をそのまま渡すのではなく、売却して現金化し、そのお金を渡す内容の遺言を「換価遺言」といいます。

被相続人甲の相続人は乙のみである。
甲は生前からA市と知人丙に財産を遺贈したいと考えており、公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)を作成した。本件遺言の内容は、要旨①一切の不動産を遺言執行者(丙)により換価させた上で、換価した金額から諸費用を控除した残額をA市に遺贈する、②上記①の不動産を除く財産を遺言執行者(丙)により換価させた上で、換価した金額から諸費用を控除した残額を丙に遺贈するというものであった。
その後、甲の相続が開始したため、A市及び丙は本件遺言どおりに財産を取得した。

上記のように、相続人以外の方が遺言執行者となり、相続財産を売却により現金化し、そのお金を市区町村に渡した場合、市区町村はその受け取った現金に対する相続税を納める義務があるのでしょうか?

市区町村は相続税を納める義務がない

相続税法において相続税の納税義務を有する者は、相続税法第1条の3《相続税の納税義務者》各号に該当する個人又は同法第66条《人格のない社団又は財団等に対する課税》第1項及び第4項に該当する人格のない社団等をいうとされている。

A市は個人にも人格のない社団等にも該当しないため、相続税の納税義務者に該当しません。

したがって、A市が取得したお金には、相続税は課税されません。

上記の例では、相続人以外の受遺者でもある知人丙さんが遺言執行者として不動産を売却しています。

この不動産の売却により儲け(譲渡所得)が発生した場合、誰が所得税の申告をすることになるのでしょうか?

所得税を納める義務があるのは相続人または包括受遺者

本件遺言によれば、被相続人甲は、丙を遺言執行者として、財産の換価処分をさせることを指示しているものと認められるところ、財産を換価したことによる効果も、一義的には遺言執行者である丙に帰属するものとも考えられる。

「譲渡所得は誰が申告すべきか?」と考えた場合、「売ったのは誰か?」というと、遺言執行者である知人丙さんということになります。

一方で、民法第1015条《遺言執行者の行為の効果》において、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効果を生ずる」と規定されていることから、遺言執行者の行為の効果は、相続人に帰属し、更に、民法第990条では、「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定されていることから、遺言執行者の行為の効果が帰属する相続人の範囲には、包括受遺者がいる場合には、包括受遺者も含まれることとなる。

知人丙さんは遺言執行者として不動産を売却しているため、その場合には、相続人または包括受遺者にその効果が帰属する、としています。

しかしながら、本件遺言における遺贈は、上記1(2)のとおり、特定遺贈と解するのが相当であることから、包括受遺者は存在しない。

A市に財産を渡す方法は、「(不動産の売却により得られる)お金」を渡す「特定遺贈」であり、包括遺贈ではないため、A市は包括遺贈者ではありません。

そうすると、遺言執行者の行為の効果が帰属する者は、被相続人甲の法定相続人である乙のみとなり、換価に係る譲渡所得の納税義務者は、乙と解することが相当である。

包括受遺者がいないとなると、「遺言執行者の行為の効果は、相続人に帰属」することになるため、財産を全く相続しない相続人乙さんが譲渡所得に係る所得税を納税しなければならない、というオチになっています。

想う相続税理士

通常と異なる(一般的ではない)内容の遺言を作成する場合には、特に課税関係をきちんと確認しましょう。