相続税専門税理士の富山です。
今回は、生前に亡くなった方の口座から多額の出金があり、それが相続税の申告に反映されておらず、結果的に重加算税が課税された事例について、お話します。
出典:TAINS(Z888-2485)(一部抜粋加工)
令和5年1月26日判決
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生前の預貯金口座からの多額の出金は相続税の申告にどう影響する?
亡くなった方が生前、(体がご不自由だったりして)ご自分では預貯金口座からお金を引き出せないので、キャッシュカードを子供に渡し、お金を引き出してきてもらった、その現金が実際に亡くなった時にあった、ということであれば、その出金されたお金は、通常「現金」として相続税の申告に計上します。
もし、その現金の在り処(所在場所)が分からなかったら、税務署はどのように指摘してくるのでしょうか?
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「相続人である子供が勝手に引き出した」という前提条件
本件口座で保有されていた丙(亡くなった方)の資産を全て現金に換えて引き出すというものであるところ、丙が黙示的であれこのような出金をする権限を原告甲(相続人である子供)に付与していたとは通常考え難いし、本件各出金が行われた当時の丙の認知能力が相当低下していたことからすれば、丙が原告甲に対して上記の態様の出金に係る授権をしたものとは一層考え難い。
亡くなった方が子供にお金の引き出しを頼んだ、というのではなく、相続人である子供が勝手に亡くなった方のお金を引き出した、と認定されました。
勝手にお金を引き出しても亡くなった方のために使っていればOK
本件各更正処分において控除された介護付有料老人ホームの入居金等を除いて、原告甲が本件各出金に係る金員を丙のために費消した等の事情を認めるに足りる証拠もないから、いずれにしても相続の開始時点では、原告甲が同金員を自己のために所持し、又は費消したことが優に認められるものである。
亡くなった方の口座から子供が勝手にお金を引き出しても、それを介護付有料老人ホームの入居金等、亡くなった方のために使っているのであればOKだけれども、そうではない場合には、引き出した子供が自分のモノにしているか、自分のために使っちゃっている、と認定されました。
そのように認定するのはいいとして、税務署はそれをどのように相続税の課税に結び付けるのでしょうか?
不当利得返還請求権は相続税の課税対象
以上によれば、原告甲は、相続の開始までに、本件各出金に係る金員について、丙の占有を排除して自己のために所持し、又は費消していたのであり、法律上の原因なく利益を受け、そのために丙に損失を及ぼしたものといえるから、丙は、民法703条、704条に基づき、原告甲に対する不当利得返還請求権を有するに至っていたと認められる。
民法(一部抜粋)
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
「勝手にやったかどうかに関係なく、お金を引き出してしまえば自分のモノになる」なんてことはなく、そのような不当な利益を得た場合には、その利益を返還しなければならない、ということです。
逆の立場から言えば(亡くなった方の立場としては)、債権(私債権)を有するということになるため、それが相続財産として相続税の課税対象になる、ということになります。
想う相続税理士