相続税専門税理士の富山です。
今回は、不動産の所有権移転における「登録免許税」「不動産取得税」の負担について、お話します。
贈与による不動産取得には「あまり知られていないコスト」がある
「不動産を生前に子に贈与しておけば、相続の手間も減らせるし節税にもなるはず。とはいえ、不動産は評価額が高いから、暦年課税ではなく相続時精算課税だな」
そう考えて、相続時精算課税制度を使って不動産を贈与しようとする方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここで見落としがちなポイントが、不動産の贈与には相続とは異なる税率での課税が発生するという点です。
具体的には、登録免許税と不動産取得税の負担が、相続時と比べて大きくなります。
「節税のつもりがかえって出費が増えた」というケースもあるのです。
登録免許税と不動産取得税の税率差に注意
不動産を相続や贈与等により取得すると、登記を行うために登録免許税が発生します。
相続によって不動産を取得した場合、この税率は原則0.4%ですが、贈与による取得では2.0%という税率が適用されます。
なんと5倍もの差があるのです。
さらに、不動産取得税にも大きな違いがあります。
相続では不動産取得税が非課税となりますが、贈与ではしっかりと課税されます。
税率は4%(原則)ですが、現在、土地と住宅については、軽減税率として3%が適用されています。
想う相続税理士秘書
たとえば、宅地の評価額が2,000万円の場合、相続で取得すれば不動産取得税は0円ですが、贈与の場合には30万円の不動産取得税が発生します(宅地は2分の1軽減有)。
これに登録免許税40万円を加えると、70万円程度の税負担が発生することになります。
このように、不動産を相続時精算課税により贈与した場合には、「2,500万円の特別控除額を活用して『税金ゼロ』で渡せる」かというと、そんなことはなく、贈与税以外の税金の納税義務が生じることを理解しておく必要があります(暦年課税による贈与も同様です)。
不動産贈与は「トータルコスト」で判断を
このような税コストを踏まえると、不動産を贈与する際には以下のような観点から検討すべきです。
その不動産の今後の利用予定(自宅に住む、売却する、貸すなど)
贈与を受けた人が税負担や維持費を負担できるかどうか
たとえば、相続時精算課税制度を利用して収益物件(賃貸マンションなど)を贈与する場合、その物件からの収益を活用して納税できるかもしれません。
一方で、自宅など収益を生まない不動産を贈与した場合は、贈与された側にまとまった納税資金の準備が必要になります(贈与財産については、相続税の申告に持ち戻しされても、小規模宅地等の特例の適用による評価額の減額は適用できません)。
また、税負担以外にも、不動産を贈与することで相続時に不公平感が相続人間に生じたり、遺留分のトラブルが起きたりする可能性があるため、慎重な対応が求められます。
想う相続税理士
制度を活用するかどうかは、贈与後の資産の運用や維持も含めた総合的な視点で判断することが重要です。
不動産の贈与を検討する場合は、専門家と一緒に慎重にシミュレーションを行うことをおすすめします。