相続税専門税理士の富山です。
今回は、不動産贈与契約公正証書があったとしても、その贈与があったとは認められなかった判決について、お話します。
出典:TAINS(Z238-8235)(一部抜粋加工)
判決(平成10年9月11日言渡・控訴)高裁は、控訴を棄却しました。また、上告も棄却されています。
贈与が税務署にバレるのが贈与税の時効が成立した後だったら課税されない?
贈与があったら、通常は贈与税が発生します。
不動産を贈与した場合、その不動産について所有権移転登記をしたら、その情報は法務局から税務署に送られます(税務署にバレます)。
贈与税がかかるのに贈与税の申告をしなかったら、無申告を指摘されます。
不動産の贈与契約をしても、所有権移転登記をしなければ、税務署にはバレません。
贈与税がかかるのに贈与税の申告をしなくても、税務署に無申告を指摘されません。
贈与税には時効(6年・7年)があります。
不動産の贈与契約をした後、8年後に所有権移転登記をしたら、その時に税務署にバレます。
でも時効だから、税務署は贈与税を課税できないのでしょうか?
公証役場で贈与契約書を作成すれば贈与があったことになるか?
不動産贈与公正証書を作成した後8年後に所有権移転登記を行った場合、公正証書作成時期に贈与があったとは認められないとされた事例
納税者の父は、昭和60年3月14日に不動産贈与契約公正証書を作成した。納税者は、平成5年12月に所有権移転の登記を行った。課税庁は、この不動産の贈与について平成5年分の贈与税決定及び無申告加算税の決定処分を行った。本件は、この取消しを求めたものである。
名古屋地裁は、本件公正証書が、本件不動産を納税者に贈与しても、贈与税の負担がかからないようにするためにのみ作成されたのであり、昭和60年には贈与がなされたものとは認められないと判示しました。そうすると本件は、書面によらない贈与に該当し、不動産の引渡し又は所有権移転登記がなされたときにその履行があったとされ、本件においては、納税者は本件不動産に従前から居住しており、本件登記手続よりも前に、本件不動産の贈与に基づき本件不動産の引渡しを受けたというような事情は認められないから、本件登記手続がなされたときをもって本件不動産の贈与に基づく履行があり、その時点で本件不動産を贈与に基づき取得したと見るべきであると判断して納税者の主張を退けました。
契約書があっても、書面によらない贈与に該当し、贈与契約書が作成された時ではなく、所有権移転登記をした時に贈与があったものとされました。
どうしてそのような結論になるのでしょうか?
贈与があったかどうかを税務署が把握するのは難しいから・・・
民法(一部抜粋)
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
贈与について、民法では上記のように規定されていますが、これだと税務署は大変です。
通常、贈与は仲の良い間柄や親族間で行われます。
利害が対立する第三者間の通常の取引とは違います。
贈与の意思表示がされ、それが受諾されたのはいつかなんてことは、またはそれが本当にあったかどうかなんてことは、税務署は簡単には把握できません(いつ贈与があったか、いつ贈与の意思表示をし、それを受諾したかなんて、いくらでも当事者間で口裏合わせできちゃいます)。
把握できないうちに贈与税の時効期間が経過したら、税務署はもう手も足も出ないのでしょうか?
そんなことはありません。
このような場合に対応できるよう、次のような通達が定められています。
相続税法基本通達(一部抜粋)
1の3・1の4共-8 財産取得の時期の原則
相続若しくは遺贈又は贈与による財産取得の時期は、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるものとする。
(2) 贈与の場合 書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時1の3・1の4共-11 財産取得の時期の特例
所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について1の3・1の4共-8の(2)の取扱いにより贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱うものとする。
つまり、贈与の意思表示がいつあったかなんて関係なく、所有権移転登記をした時に贈与があった、と税務署が認定できるようになっているのです。
想う相続税理士