相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の申告における配偶者の考え方について、お話します。
内助の功の対価は何所得?
「内助の功」とは、夫が家の外で成功できるように影で支える妻の働き、のことです。
つまり、夫が外で仕事をしてお金を稼いでくることができるのは、妻の功績でもある、ということです。
相続税の税務調査で問題になるのが「名義預金」です。
よくあるのが、旦那様が亡くなった場合に、奥様の口座にお金がたくさんある、よく調べると、旦那様が稼いだお金が蓄積されたものだ、というケースです。
奥様は、旦那様が稼いだお金は自分の「内助の功」の賜物なワケだから、その分は自分がもらってもおかしくないハズだ、とお考えになります。
そうすると、生前に旦那様のお金を自分の預金口座に移して自分の名義で積み立てます。
これが「名義預金」です。
奥様が旦那様に何かやってあげた、そしてその対価としてお金をもらった、ということであれば、それは「所得」(所得税の課税対象)になるということなのでしょうか?
ということは、奥様は確定申告をしなければいけない、という理屈になります。
しかし、内助の功について確定申告をしているという方は、まずいらっしゃらないでしょう。
ですから、奥様が税務調査でご自分の名義の預金について指摘されたときに、「内助の功の分だ」と主張したとしても、税務署には通用しません。
想う相続税理士
旦那様の口座に入った時点でもう奥様のモノ?
内助の功の分を旦那様の収入から分けてもらう、という考え方ではなく、もともと旦那様の給与の一部が妻のモノなのだ、という考え方もあるでしょう。
しかし、これについて民法上は次のように規定しています。
民法
(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
つまり、旦那様が稼いできたお金は、旦那様の財産なのです。
調査官もその認識で税務調査にやってきます。
でも実は税務署も内助の功を考えてくれている!
旦那様のために一生懸命尽くしても、その稼いできたお金は奥様のモノにはならない、という結論になるのですが、相続があった場合には話が変わってきます。
まず「法定相続分」です。
法定相続分とは、民法において定められている相続割合(相続財産の取得割合)です。
亡くなった方にお子さんがいる場合には「1/2」、お子さんがいない場合には「2/3」、お子さんや親御さんなどがいない場合には「3/4」、さらに兄妹姉妹もいない場合には「100%」となります。
ただし、その遺言の内容では最低限の取り分である「遺留分」がもらえない相続人が、「遺留分の侵害額請求」をした場合には、そのもらえない分だけお金を請求することができます。
遺言がない場合には、遺産分割協議により遺産分けを行います。
この遺産分割協議は、相続人全員が納得すればどのような分け方でも可能です。
話し合いがまとまらず遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所の調停などの手続きに進みますが、そうなると基本的には法定相続分で財産を分けることになります。
つまり、遺産ワケがモメてしまったとしても、「法定相続分(少なくとも1/2)の財産の取得が配偶者には保証されている」ということになります。
想う相続税理士秘書
次に、相続税の計算における「減税特例」です。
「配偶者の税額軽減」というものがあり、配偶者が取得した財産については、上記の法定相続分か、1億6,000万円のいずれか多い金額まで、相続税が非課税となります。
全財産が3億円で、亡くなった方にお子さんがいる場合、法定相続分は1/2になりますから、3億円×1/2=1億5,000万円と1億6,000万円のいずれか多い金額、つまり1億6,000万円までなら、配偶者が相続しても相続税はかかりません。
つまり、「少なくとも法定相続分までであれば、結果的に相続税を払わずに自分のモノにできる」ワケですから、相続においては「内助の功」を認めてもらえる、ということです。
想う相続税理士
そこで、その財産を旦那様の相続財産として申告することになるのですが、遺産分けにおいては内助の功を認めてもらえますし、相続税申告においては非課税の特典がありますので、結果的にタダて自分のモノとすることができるのです(奥様名義の預金が全財産の1/2を超える場合には保証できませんが)。