相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続時精算課税制度の選択取り消し不可・一貫適用義務に関する注意点について、お話します。
相続時精算課税は「片道切符」?選んだら元には戻れない
相続時精算課税制度には、「選択後の変更不可」という重要なルールがあります。
これは、制度を一度選ぶと、その特定贈与者(親や祖父母など)からの贈与については、将来にわたり暦年課税方式に戻すことができないというものです。
たとえば、父親からこの制度を利用して贈与を受けた場合、その後の父親からの贈与は、すべて相続時精算課税制度に基づく取扱いになります。
その後、「やっぱり相続税と贈与税の税負担の差を利用したアグレッシブな贈与により相続税の節税対策を進めたい」と思っても、暦年課税制度に切り替えることはできません。
この「一貫適用」の原則により、制度選択時の判断ミスが将来の税負担や相続税対策の柔軟性に大きな影響を与える可能性があります。
慎重な判断が必要です。
複数の贈与者がいる場合はどうなる?兄弟間等での使い分けに注意
相続時精算課税制度は、贈与者ごとに選択可能という特徴があります。
つまり、父親からの贈与についてこの制度を選択しても、母親や祖父母など他の贈与者からの贈与については、引き続き暦年課税制度を使うことが可能です。
これは一見便利に思えますが、実務上は注意が必要です。
家族の中で贈与者(特定贈与者)と受贈者が複数いる場合、それぞれの受贈者がそれぞれの贈与者に対してどの制度を選択しているかを明確に管理しなければ混乱を招く恐れがあります。
制度選択の記録や証拠書類の保管も重要なポイントです。
相続時に相続税が課税されるという「見えない負債」
この制度のもう一つの特徴が、相続時に贈与された財産を「相続財産に加算」して相続税を計算する点です。
既に支払った贈与税は控除されますが、加算対象となる資産が多ければ、その分だけ相続税の課税対象も増え、思わぬ税負担となるケースもあります。
そしてこの制度は、申告義務のない110万円以下の贈与であっても、「相続時精算課税選択届出書」を提出していなければ暦年課税とみなされてしまいます。
つまり、制度の適用を受けたつもりでいても、届出をしていなければ適用されないというリスクがあるのです。
また、無申告や評価誤りがあっても、相続時にはその分まで加算されるため、制度選択後の管理体制や財産評価がずさんだと、最終的に高額な税金を支払うことにもなりかねません。
想う相続税理士
しかしその裏には、一度選んだら戻れない「片道切符」の制約や、将来の相続時に自動的に発生する課税リスクが潜んでいます。
制度を活用するかどうかは、受贈者の年齢、財産の種類、今後の相続計画などを総合的に考慮して判断することが不可欠です。
自身だけでの判断に迷いがある場合は、相続税に詳しい専門の税理士へ相談し、制度を正しく理解した上で活用することが重要です。