相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方が生前に締結した土地建物譲渡契約を、相続発生後に相続人が手付金の倍額を支払って解除した場合の、相続税申告における取扱いに関する判決について、お話します。
出典:TAINS(Z261-11773)(一部抜粋加工)
平成23年9月28日判決
想う相続税理士秘書
相続時点で土地建物譲渡契約が成立しているということは?
相続が発生し、亡くなった方の固定資産評価証明書や、そこに記載されている土地建物の登記事項証明書を取得したら、A土地・B土地は亡くなった方のものであることが分かった、という場合、そのA土地・B土地は、相続財産として相続税の課税対象になります。
では、亡くなった方が、そのA土地・B土地を譲渡する契約を生前に締結していて、でも、引渡しはまだだった、という場合(引渡しがまだであれば、登記事項う証明書上の所有者は亡くなった方のままです)はどうなるのでしょうか?
この場合には、その譲渡契約に係る譲渡代金請求権が、相続財産として相続税の課税対象になります。
譲渡契約は既に成立しているため、A土地・B土地は既に亡くなった方のものではありません。
その譲渡代金をまだ受け取っていないので、その未収になっている代金が「未収入金」として相続税の課税対象になります。
相続人が契約条項に基づき手付金の倍額を支払って契約解除したらどうなる?
相続開始時点で土地建物譲渡契約が成立していれば、上記の取扱いになるのですが、その契約を相続人が解除したらどうなるのでしょうか?
相続税の課税財産(課税物件)は、「相続により取得した財産」である(相続税法2条)。同法には、「相続により取得した財産」に関して、みなし相続財産(同法3条)、非課税財産(同法12条)などの規定があるほかは、「相続」や「相続により取得した財産」に関する規定はないので、「相続により取得した財産」の解釈にあたっては、相続に関する民法の規定に整合するように解釈すべきである。そうすると、ある財産が、相続開始後の解除の遡及効(民法545条1項参照)によって、民法上の相続財産に帰属しないとされた場合には、相続税法上の「相続により取得した財産」にも帰属しないことになる。
本件解除は、手付契約に基づく解除権の行使による解除であったから、「解除権の行使によって解除された」(国税通則法23条2項3号、同法施行令6条1項2号参照)場合に該当するので、本件解除の遡及効(民法545条1項)は、本件における課税関係に影響を及ぼすことになる。すなわち、本件売買契約は、その成立時点(平成17年12月7日)に遡って消滅し、相続開始日(平成18年3月10日)において、本件売買契約は存在せず、本件売買代金債権も存在しなかったことになることから、本件売買契約に係る相続税の課税財産は、各土地建物であったというべきである。
税務上も、契約解除により土地建物の譲渡はなかった、ということとされ、結果として、相続財産は土地建物である、ということになりました。
想う相続税理士