相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続放棄について、お話します。
相続放棄は自分だけの問題ではない
亡くなった方に多額の借金があるような場合、相続人の方が相続放棄をすれば、その借金を引き継ぐ必要がなくなります(土地や預貯金などのプラスの財産も相続できなくなりますが)。
この場合、それで話は終わりません。
例えば、相続人が長男のみだった場合、長男が相続放棄をすることにより、長男は亡くなった方の借金を引き継ぐ必要がなくなりますが、その相続放棄により、長男が元々いなかったとした場合に相続人となる方が代わりに相続人となり、借金を引き継ぐことになります。
民法(一部抜粋)
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
そうすると、亡くなった方の両親が相続人となり、両親が相続放棄をした場合には、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。
上記のような流れになりますので、自分が相続放棄をした場合には、それにより新たに相続権を有することになる方にその旨をきちんと伝えましょう(後でモメないために)。
財産の取得を遠慮したい場合には相続放棄でなくても可
上記では、相続人が長男のみという設定でしたが、今度は、相続人が配偶者と長男の2人という設定でお話します。
長男が、配偶者(自分から見た母)に全財産を相続させてあげようと考えて自分が相続放棄をすると、上記と同じように長男の代わりに亡くなった方の両親が相続人となることから、配偶者(子から見た母)が夫の親(子から見た祖父母)と遺産分割協議を行うことになってしまいます(義理の両親との話し合いはキツいかも)。
このような場合には、長男が、自分はまったく財産を相続しない、配偶者(自分から見た母)が全財産を相続する、という内容の遺産分割協議書を作成し、それに2人が実印を押印すれば、母に全財産を相続させることができます。
相続人に子から見た祖父母が出てくることはありません。
相続放棄で節税できる場合がある!
長男が亡くなって、その長男に配偶者や子がいらっしゃらない場合、相続人は長男のご両親になります。
お父様が既に死亡していて、お母様のみご存命の場合、そのお母様が相続人となり、長男の財産を相続します。
お母様はお父様の配偶者ですが、長男から見た場合には「母」であり、配偶者ではありません。
ですから、お母様が長男の財産を相続しても、配偶者の税額軽減の適用を受けることができず、普通に相続税がかかります。
お母様が長男の財産を相続した後、そのお母様が亡くなった場合、相続人は長男の兄弟(例えば次男)になり、元々長男のものであった財産を母から相続します。
つまり、「長男→母→次男」と2回相続税が課税されるのです。
上記のケースで、母が相続放棄をしたらどうなるでしょうか?
母は元々相続人ではなかったものとみなされるため、次男が長男の相続人となります。
つまり、「長男→次男」と1回の相続税の課税で済むのです。
相続税対策として、孫を養子にして、財産を一代飛ばしで移転させることがありますが、上記のような場合、相続放棄をすることにより、同じように財産の一代飛ばしが可能となり、それにより相続税の負担軽減効果が生まれれば、結果として、財産を多く残すことにつながります。
想う相続税理士