相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続時精算課税選択届出書の提出はちゃんとしたけれども、贈与税の申告をしなかった、という場合の期限後申告について、お話します。
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各特定贈与者からの贈与の金額がそれぞれ110万円以下なら全部非課税?
誤りやすい項目集(資産税関係)
令和6年12月
関東信越国税局 資産課税課(一部抜粋加工)
【誤り事例】
甲は、令和6年4月1日に父及び母から現金100 万円ずつの贈与を受け、それぞれの贈与について初めて相続時精算課税制度を選択することとした。各特定贈与者から受けた贈与財産の価額は、共に相続時精算課税に係る基礎控除額(110 万円)の範囲内であるため、各特定贈与者に係る相続時精算課税選択届出書及び添付書類を申告期限内に提出した。
⇒ 本件では、父及び母から贈与を受けた相続時精算課税適用財産の価額の合計額が相続時精算課税に係る基礎控除額(110 万円)を超えるため、甲が両者からの贈与について、共に相続時精算課税の特別控除の特例の適用を受けるためには、相続時精算課税選択届出書及び添付書類のみならず、贈与税の申告書を申告期限内に提出する必要がある。
【留意事項】
同一年中に、2人以上の特定贈与者から贈与により財産を取得した場合の相続時精算課税に係る基礎控除額110 万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格であん分します。
贈与税は、もらった人が申告します。
例えば、令和6年にAさんが、BさんとCさんから1回ずつ贈与を受けた場合、BさんとCさんは贈与税の申告をする必要はなく、Aさんが贈与税の申告をします。
そのAさんが贈与税の申告をする際、相続時精算課税による贈与については、年間110万円の基礎控除額(非課税枠)を適用できます。
Aさんの贈与税の申告は1回しかしません。
Bさんから1回・Cさんから1回の贈与を受けたから、計2回の贈与税申告をする、という訳ではありません。
Bさんからの贈与とCさんからの贈与を一緒に、令和6年分として1回で申告します。
その1回の申告において適用できる相続時精算課税による贈与の基礎控除額(非課税枠)が110万円なのです。
2人からもらったから、相続時精算課税による贈与の非課税枠が110万円×2=220万円になる、という訳ではないのです。
2,500万円の特別控除額と110万円の基礎控除額の性質上の違い
上記の甲さんについて考えてみると、相続時精算課税選択届出書を提出しているので、父・母からの贈与は相続時精算課税による贈与です。
贈与金額は、(父から)100万円+(母から)100万円=200万円で、110万円を超えています。
これが110万円以下なら、申告不要です。
110万円を超えているため、贈与税の申告をしなければなりません。
正確に言うと、もう申告期限を経過してしまっているため、贈与税の「期限後申告」をしなければなりません。
この場合、2,500万円の特別控除額は適用できません(「相続時精算課税の特別控除の特例の適用を受けるためには」「贈与税の申告書を申告期限内に提出する必要がある」)。
ただし、110万円の基礎控除額は適用できます。
具体的には、次のように贈与税を計算します(110万円の非課税枠は贈与金額で按分します)。
- 父からの贈与
100万円△110万円×父から分100万円/(父から100万円+母から分100万円)=45万円
45万円×20%=9万円 - 母からの贈与
100万円△110万円×母から分100万円/(父から100万円+母から分100万円)=45万円
45万円×20%=9万円 - 合計
9万円+9万円=18万円
この各9万円は、父・母それぞれの相続税申告において精算されます。
相続時精算課税による贈与は7年経過しても実質的に時効にならない
相続時精算課税による贈与は、各年分の非課税枠を超えた分は、必ず相続税の課税対象になります。
上記の「甲は、令和6年4月1日に父及び母から現金100 万円ずつの贈与を受け」という事実が、7年経過しても税務署にバレなかったので、上記の非課税枠を控除した後の各45万円を、父・母の相続税の申告で除外したとします。
それを、その後の税務調査で調査官に見つかり、「45万円が計算からもれていますよ」と指摘されたとします。
それに対して、「贈与から7年経過しているから時効ですよね!」と反論しても通用しません。
相続時精算課税を選択した年分以後の、その特定贈与者からの贈与のうち、非課税枠を超える部分については、贈与税の申告をしていようがしていまいが、相続税の課税対象になるからです。
贈与財産を相続税の申告に必ず織り込む(贈与税を納付していたら相続税の申告で精算する)のが、相続時精算課税制度だからです(非課税枠部分を除く)。
想う相続税理士