相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方が老人ホームに入居されていた場合の、小規模宅地等の特例の適用の注意点について、お話したいと思います。
亡くなった方がお亡くなりになった時に老人ホームに入居されていたということは、「ご自宅に住んでいなかった」ということになるのですが、それでも一定の要件を満たせば、ご自宅の敷地について特定「居住用」宅地等として、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
この場合に注意すべき点があります。
その亡くなった方が老人ホームに入居した後、空き家になった自宅が不用心だと心配して、親族の方が住み始めていた場合、小規模宅地等の特例を適用できなくなる場合があるのです。
法律の組み立てを見ていきましょう。
租税特別措置法(一部抜粋)
第69条の4 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第3項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第2号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第5項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの
太字の部分によって、亡くなった方の自宅の敷地について、住んでいなかったのに、住んでいた場合の特例を適用させてあげるよ、としているのです。
ちなみに、この「被相続人等」というところも重要です。
ここで、カッコ書きで除かれている部分を見てみます。
租税特別措置法施行令(一部抜粋)
第40条の2 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
法第69条の4第1項に規定する政令で定める用途は、同項に規定する事業の用又は同項に規定する被相続人等(被相続人と前項各号の入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、同条第1項の建物に引き続き居住している当該被相続人の親族を含む。)以外の者の居住の用とする。
太字の部分ですが、事業の用に供されていたり、被相続人等以外の者の居住の用に供されていてはダメですよ、と言っているワケです。
ここでの「被相続人等」は、先ほどの措置法の方に書いてあるとおりです。
この被相続人等に加えて、入居又は入所の直前において亡くなった方と生計を一にして、引き続き居住している人も含めますよ、と言ってるワケです。
つまり、先ほどの措置法の方では、「相続の開始の直前」と言っていますが、そうではなくて、そのもっと前の段階の、亡くなった方がご自宅にいらっしゃった時、入居又は入所の直前で生計を一にしている親族等についても含めますよ、という風に言っています。
このような「入居前に生計を一にしていた親族等」を含めた「被相続人等」以外の人が住んでいたら、特例の適用はダメですよ、ということです。
ということは、後から別生計の親族が引っ越してきてしまったような場合には、ダメということになります。
さらに通達を見てみます。
租税特別措置法関係通達(一部抜粋)
69の4-7 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲
措置法令第40条の2第2項に定める事由により被相続人の居住の用に供されなくなる直前まで、被相続人の居住の用に供されていた家屋で、被相続人が所有していたもの又は被相続人の親族が所有していたもの(当該家屋を所有していた被相続人の親族が当該家屋の敷地を被相続人から無償で借り受けており、かつ、被相続人が当該家屋を当該親族から借り受けていた場合には、無償で借り受けていたときにおける当該家屋に限る。)の敷地の用に供されていた宅地等(被相続人の居住の用に供されなくなった後、措置法第69条の4第1項に規定する事業の用又は新たに被相続人等以外の者の居住の用に供された宅地等を除く。)
太字の部分ですが、亡くなった方の居住の用に供されなくなった後、つまり入居した後ですね、新たに被相続人等以外の方の居住の用に供された宅地等を除く、となっていますので、入居前生計一親族等を含めた被相続人等以外の方が住むことによって、特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例の適用が認められなくなってしまう、ということが書かれています。