相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続時精算課税の選択を検討している場合において、贈与者が複数いるときの課税方法の使い分けと実務上の注意点について、お話します。
相続時精算課税は「一度選ぶと変更できない」けれど・・・
相続時精算課税制度は、原則として、60歳以上の父母や祖父母(贈与者)から、18歳以上の子や孫(受贈者)への贈与に適用できる特例制度です。
一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与については、将来にわたり暦年課税には戻れない、という性質があります。
しかし、ここで多くの方が見落としがちなのが、相続時精算課税制度は「受贈者単位かつ贈与者単位」で選択できる制度であるという点です。
たとえば、父親からの贈与については相続時精算課税を選択し、母親や祖父母からの贈与については暦年課税を適用する、ということも可能なのです。
この「選択の分離性」は、家族全体の資産状況や贈与目的に応じて柔軟に使い分けができるメリットをもたらす一方で、実務上の管理には細心の注意が必要となります。
贈与者ごとの制度選択が可能だからこそ起きる混乱
制度上は明確に「贈与者単位での選択」となっているものの、実際の現場では、以下のような混乱やトラブルが起きやすくなっています。
祖父母からの贈与については相続時精算課税を選択していないのに、相続時精算課税が適用されると誤認されて贈与が実行された
申告内容や届出書の有無が家庭内で共有されておらず、課税方法を活かした贈与がされていない
将来の相続税の申告に影響があることが理解されておらず、記録が残されていない
想う相続税理士秘書
実務での管理のコツと制度選択のポイント
複数の贈与者がいる場合に贈与をスムーズに行うためには、次のような実務対応が有効です。
→ 誰からいつ、どの制度で、いくら贈与を受けたかを年ごとに整理する
場合によっては贈与契約書に制度名を明記する
→ 贈与契約書に明記しなくても、「この贈与は相続時精算課税の対象」「この贈与は暦年課税」と他の文書上で明示しておく
家族内で情報を共有し、制度の選択に一貫性を持たせる
→ 場合によっては、親子・祖父母・兄弟姉妹など、家庭内の他の親族とも情報を共有しておくことで誤解を防ぐ
税理士などの第三者に制度設計を相談・記録してもらう
→ ;専門家のサポートを受けることで、記録漏れや誤認識を防止する
また、将来の相続を見据えた制度選択のポイントとしては、
税率差を活用した節税贈与を継続的に実行したい場合には、暦年課税を維持
不動産や非上場株式など高額かつ資産価値の変動が大きい財産を贈与する場合には、相続時精算課税の影響も慎重に検討
といった判断が求められます。
想う相続税理士
しかしその反面、贈与者別の管理や記録が適切に行われていなければ、誤解や税務上のトラブルに発展しかねません。
特に家族全体で資産移転を進める場合には、誰から・いつ・どの制度で・いくら贈与を受けたのかを明確に記録し、制度の特性をふまえた上で適切に使い分けることが重要です。
迷った時は、相続税・贈与税に強い税理士に相談し、ご家庭の贈与戦略を整理することで、制度を最大限に活用できます。