相続税専門税理士の富山です。
今回は、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」について、お話します。
タダ貸しに移行すると借地権の贈与が発生する
上記の図をご覧ください。
Aさんの土地をBさんが借りて、建物を建てていたとします。
通常、この取引により、Bさんは借地権を有することになります。
Aさんがこの土地を、Bさんの親族であるCさんに売ったとします。
今まで、Bさんは地主であるAさんに地代を支払っていましたが、今度は地主が親族であるCさんになりました。
Cさんが「地代は要らない」というので、今後、Bさんは地代を払わないで済むことになりました。
「メデタシメデタシ」でしょうか?
そんなことはありません。
賃貸借契約(地代の支払有)が使用貸借契約(地代の支払無)に移行すると、借地権は消滅します。
国税庁HP(一部抜粋)
使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
(使用貸借による土地の借受けがあった場合)
1 建物又は構築物の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、借地権の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行がある地域においても、当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は、零として取り扱う。
(元々Bさんの借地権だった部分も含めて)土地が丸々Cさんのモノになりますので、借地権がBさんからCさんに贈与されたものとみなされます。
Cさんに贈与税が課税されます。
「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」とは?
「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」というモノがあります。
国税庁HP(一部抜粋)
B1-4 借地権者の地位に変更がない旨の申出手続(借地権者の地位に変更がない旨の申出書)
[概要]
借地権の目的となっている土地(所有権)をその借地権者以外の者が取得し、その土地の取得者と借地権者との間にその土地の使用の対価として地代の授受が行われないこととなった場合において、地代の授受が行われないこととなった理由がその土地の貸借が使用貸借となったことに基づくものでなく借地権者は借地権者としての地位を放棄していない旨を、その土地の取得者が申し出る手続です。
「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」は、「上記の『地代の支払有』が『地代の支払無』になったのは、『賃貸借契約』から『使用貸借契約』に移行したからではなく、『賃貸借契約』が継続しているけれども、地主が地代を免除することにしたためです、だから、『地代の支払無』になっても、Bさんの借地権はあるんです」ということを、税務署に伝える書類なのです。
この「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の提出により、Cさんへの贈与税の課税が回避できるのです。
相続税の申告の際に借地権の存在を見落とすな!
「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出するだけでホッとしてはいけません。
その後、Bさんが亡くなった場合、Bさんの固定資産評価証明書に上記の借地権は記載されていません。
上記の経緯(「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の提出)を知らないと、Bさんの相続税の申告の際、財産の計上もれを引き起こすリスクがあります。
その後、Cさんが亡くなった場合、Cさんの固定資産評価証明書を見てそのまま評価すると、上記の借地権を考慮せず、(底地部分だけ申告すればいいのに)土地全体をCさんのモノとして申告してしまうかもしれません。
上記の経緯(「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」の提出)を知らないと、Cさんの相続税の申告の際、財産の過大計上を引き起こすリスクがあります。
想う相続税理士