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母親が子供の家の改修工事をしてあげたらどうなる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、母親が子供の家の改修工事をしてあげることが贈与に該当するか、該当したとしても非課税か、について争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-533)(一部抜粋加工)
平29-05-24裁決


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改修工事部分は誰のモノ?

本件改修工事のうち、本件除外部分(照明器具などの電化製品及びその取付工事等、本件居宅の敷地に対して施工されたもの)を除いた工事部分については、その工事内容等に照らせば、本件居宅から容易に取り外せず、本件居宅の構成部分となっているもの、又は社会通念上本件居宅の一部分と認められるべきものであって、取引上の独立性を有しないといえるから、本件居宅への付合が成立する(以下、本件改修工事のうち、本件除外部分を除いた工事部分を「本件付合部分」という。)。

相続税の世界では、ザックリ言うと、「所有権」「お金を出した人」にあります。

父が亡くなった時に長男名義の預金Aがあった場合、その預金Aが父の出したお金から構成されていて、父から長男に対して贈与されたモノでなければ、その預金Aは父のモノ=「名義預金」として父の相続財産を構成します(相続税の課税対象となります)。

上記の改修工事は、お金を出したのが母なので、その改修工事部分は母親のモノになりそうですが、「付合」に該当するので、その改修工事部分は子供のモノとされました。

民法の「不動産の付合」の規定により、改修工事部分は家の持ち主である子供のモノとされるのです。

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他人の建物に増築した場合の課税関係

タダで改修工事部分を取得したら贈与

本件付合部分については、本件居宅の所有者である請求人がその所有権を取得し、本件付合部分の工事費用を負担した母は、請求人に対し、民法第248条に基づき、付合により生じた損失に相当する費用について償還請求することができる。しかしながら、母には、請求人に対する費用償還請求権を行使する意思はおよそなく、当該権利を放棄していたと認められ(現に、請求人が提出した母に係る相続税の申告書においても、当該権利の記載はない。)、結局、請求人は付合による所有権取得に見合う債務を何ら負担していないということができる。

したがって、本件付合部分については、請求人は、付合が成立した時点で、母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで‥利益を受けた」といえる。

改修工事部分が子供のモノになる、ということは、その分、お金を払ったりしなければ、子供はタダでその改修工事部分を取得したことになるため、その経済的利益は贈与税の課税対象になる、ということになります。

仮に本件改修工事の恩恵を最も受けたのが母であったとしても、そこでいう恩恵の意味は、日常生活を送る上での利便性を念頭に置いたものであり、本件居宅の使用上の価値が高まり、それを母が享受しているとの意味と考えられるが、そのことと本件居宅の財産としての価値が高まったこととは経済的には一定の関係があるとしても、税法上は別の事象として捉えられるのであり、かつ、それらは両立する事象でもあることから、請求人の主張には理由がない。

「本件改修工事は主に高齢の母のためにしたものであり、これにより最も恩恵を受けたのは母であって、請求人(子供)は何ら利益を得ていない」とする主張も認められませんでした。

贈与に該当しても非課税贈与であれば贈与税はかからないけど・・・

贈与税の課税対象になったとしても、非課税贈与に該当すれば、贈与税はかかりません。

相続税法第21条の3において、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」「非課税」とされているため、改修工事部分がこれ(非課税贈与)に該当すれば、結果的に贈与税の課税は生じませんが、どうなるのでしょうか?

相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「生活費」の意義について、相続税法基本通達21の3-3は、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く。)をいう旨定めるところ、かかる費用には、日常の衣食住に必要な費用のみでなく、治療費、養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除く。)を含むものと解されている。また、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「通常必要と認められるもの」の意義について、相続税法基本通達21の3-6は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいうものとすると定めている。

相続税法第21条の3第1項第2号の立法趣旨が、生活費又は教育費は、日常生活に必要な費用であり、それらの費用に充てるための財産を扶養義務者相互間の贈与により取得してもそれにより担税力が生じないことはもちろん、その贈与の当事者の人間関係などの面からみてもこれに課税することは適当でないこと等にあることに鑑みれば、当審判所においても、上記通達の取扱いはいずれも相当であると解される。

本件では、母が多額の費用をかけて本件改修工事を依頼し、請求人が付合により当該工事の大部分に当たる本件付合部分の所有権を取得したことで、請求人は、合計約2,700万円に上る利益を受け、当該利益について母から贈与を受けたものとみなされる。このような当該利益の額、本件改修工事の規模及び内容、請求人には本件各年分において2,000万円前後の多額の所得があること等に照らせば、当該贈与とみなされる部分が請求人の「生活費」に充てるためになされた贈与に当たると解することはできない。

子供の所得(収入)が多かったこともあり、非課税贈与とは認められませんでした。

想う相続税理士

母からすれば、「自分のためにバリアフリー工事をしただけ、なぜ贈与になっちゃうの?」というお気持ちもあったかもしれません。

思わぬところに課税が生じる場合がありますので、ご注意を。