相続税専門税理士の富山です。
今回は、家族名義の預貯金があった場合に、「亡くなった方」と「亡くなった方の奥様」の「収入比」で、相続財産とそれ以外の財産を区分した裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-158)(一部抜粋)
原処分庁が相続財産であると認定した家族名義預金等のうち、被相続人の妻の収入を原資とするものは、妻の固有財産と認められるから相続財産に該当しないとされた事例
(平18-01-27裁決)
収入以上に財産があったらオカシくない?
2 一般的には、外観と実質は一致するのが通常であるから、財産の名義人がその所有者であり、その理は預貯金等についても妥当する。しかしながら、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預替えが容易にでき、また、家族名義を使用することはよく見られることであるから、その名義と実際の帰属とがそごする場合も少なくない。そうすると、預貯金等の名義人の収入・資産状況からみてその預貯金等全部の合計額が相当な範囲を超えている場合には、預貯金等の名義のみならず、その管理・運用の状況や、その原資となった金員の出捐者、贈与の事実の有無等を総合的に勘案してその帰属を判断するのが相当である。
注意すべき場合として、「預貯金等の名義人の収入・資産状況からみてその預貯金等全部の合計額が相当な範囲を超えている場合」が挙げられています。
自分でお金を稼いでいれば、その稼いだ分だけ預貯金を保有していてもおかしくないが、稼ぎ以上に保有している場合には、「実はその人のモノじゃないんじゃないか」とか「贈与でもらったんじゃないか」ということを考えなければならない、ということです。
収入と財産は比例すると考える
3 そして、預貯金等の原資が現金であることにかんがみると、同判断においては、特に、預貯金等の原資となった金員の出捐者が重要な要素となるというべきであり、その出捐者の判断は、その預貯金等の設定当時における、名義人及び出捐者たり得る者の収入並びに資産の取得及び保有の状況等を総合的に考慮するのが合理的というべきである。
お金を稼いで(収入があって)、それが手元に残っている、それがその人の財産である、という考え方からすると、収入が多ければ多いほど、その人の財産も多い、ということになります。
想う相続税理士秘書
本当に分からない部分だけを収入費で按分する
4 本件家族名義預貯金等のうち、(A)被相続人の預貯金から形成されている部分については、被相続人の収入を原資とするものであるとみるのが相当である。逆に、(B)国民年金等の請求人A(被相続人の妻)の固有の収入から形成されている部分については、請求人Aの収入を原資としていると認められる。(C)これら以外のものについては、証拠上、その個々の財産について、原資が被相続人の収入か請求人Aの収入かを個別に特定することはできない。
5 本件家族名義預貯金等は、被相続人及び請求人Aが共同して管理・運用しており、被相続人からの贈与がなかった以上その帰属の判断は、主にその原資によらざるを得ない。そして、その原資となりうるのは、被相続人及び請求人Aの各収入のみである。なお、その原資が、複数によって構成される場合には、民法427条(平成16年法律第147号による改正前のもの。)により、それぞれの原資がその預貯金等に占める割合によってあん分することになると解する。
お金を稼げば、そのお金はその稼いだ人の手元に蓄積され、その方の財産になります。
その稼いだ人が、その財産を他の人に贈与すれば、そのお金は他の人の財産になります。
贈与がなかったのであれば、その稼いだ方の財産のままです。
お金を出せるのは、収入があるからです。
誰のモノか(亡くなった方のモノか、亡くなった方の奥様のモノか)が分からなくなっている財産(預貯金等)については、収入があればその分、その方の財産を形成できるワケですから、所有者不明の財産の帰属については、お金を出したことが分かっている人の収入の比で按分し、亡くなった方に帰属するモノとされた部分については相続財産を構成すると判断せざるを得ない、とされました。
想う相続税理士