相続税専門税理士の富山です。
今回は、法定相続分・遺留分について、お話します。
相続人には財産を請求する権利がある
財産が多ければ、「相続の時には大変だろう」という考えが働きますので、財産をどのように分ければ相続が乗り切れるか、ということを前もって考えるかもしれません。
しかし、財産がシンプルな場合、例えば自宅の土地建物しかないような場合で、長男がその自宅に同居している場合には、長男は「その自宅は自分が相続するのが当たり前」と考えるかもしれません。
他の相続人もそう考えている場合には、長男が自宅を相続して話は終わりです。
しかし、他の相続人が「自分も財産が欲しい」と言ってきた場合には、たとえ財産が自宅しかなくても、その長男がこれから住むことになる自宅しかなかったとしても、それを拒否することはできません。
法定相続人には、民法で定められた財産の相続割合があります。
「法定相続分」と言います。
「全財産が欲しい」と言われても、それが拒否できない、というワケではなく、この「法定相続分」(各相続人の取り分)相当額の財産を請求されたら無視できない、ということです。
「法定相続分」があるからといって、各相続人は、必ずその割合の財産を相続しなければならない、というワケではありません。
例えば、法定相続人が3人いて、そのうち2人が財産はいらない、と言った場合には、残りの1人は全ての財産を相続することができます。
つまり、どのような遺産分けの仕方でも、その相続人全員が納得すれば可能なのです。
その、相続人全員が納得した、ということを証明するために、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は、相続人全員で遺産分けについて話し合った結果を元に作成します。
同居していた長男が自宅を相続しようとしても、他の相続人が納得しないことには、その自宅の土地建物を自分の名義にすることはできません。
その自宅を長男が相続する、という遺産分割協議書に、他の相続人の実印を押印してもらう必要があるのです。
押印してもらうためには、長男が他の相続人に代償分割金(現金)を交付する、などの対応が必要になるでしょう。
もし遺産分割協議が整わなければ、財産はずっと宙ぶらりんのままとなります。
相続税がかかる場合には、各相続人が法定相続分で相続したものとみなして計算した相続税を納付しなければなりません(遺産分けが終わっていなくても、相続税は待ってはくれません)。
遺言が作ってあった場合、状況はどう変わるのか
亡くなった方が、自宅を長男に相続させる、という遺言を作成していた場合、この遺言がある意味、遺産分割協議書の代わりとなります。
その遺言書を使って、長男は自宅を自分の名義に変えることができます。
しかし、遺言があれば、他の相続人が財産を欲しいと言えなくなるか、他の相続人からの財産の請求を拒否することができるようになるか、というと、そんなことはありません。
「遺留分」が認められているからです。
遺言により財産をもらうことができない相続人は、遺留分侵害額請求を行うことにより、金銭を請求することができます。
この「遺留分」は、基本的には法定相続分の半分となります。
例えば、妻が全財産を相続する、という遺言があり、他の相続人が(亡くなった方の)兄弟姉妹の場合、兄弟姉妹には「遺留分」がないため、妻が全財産を相続することができます。
想う相続税理士秘書
法定相続分・遺留分を前もって認識しておく
「相続があった場合に誰が相続人になるのか」、そして、「その相続人にはどれだけの権利があるのか」を前もって確認しておきましょう。
財産が自宅しかない場合で、長男が自宅を相続するのであれば、長男は他の相続人に法定相続分、または、遺留分に相当する現金などを用意しなければなりません。
つまり、自宅をそのまま相続するためには、現金などが必要になる、ということです。
財産を遺す方の視点から見ると、自分が亡くなった場合に、そのように相続人が困ることがないようにしたい、ということであれば、遺言を作成し、遺留分に配慮した遺産分けができるような財産構成にしておく、ということが必要となります。
想う相続税理士