相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続財産として申告した土地に占有者がいて(申告の時点ではタダで貸している相手と認識)、相続開始前に時効期間が経過していたモノとして相続開始後にその占有者に時効取得された土地に関する相続税申告における取扱いについて争われた裁決について、お話します。
出典:TAINS(J74-1-01)(一部抜粋加工)
平19-11-01裁決
相続開始後に時効期間経過・時効取得された場合には相続税の課税対象
相続開始後の時効期間経過により時効取得された土地の相続税申告における取扱い上記の記事では、相続財産である土地が、相続開始後に時効期間が経過し、時効取得された場合には、その土地は相続税の課税対象に含めなければならない、とされた判決事例について、お話しました。
では、相続財産である土地の時効期間の経過が相続開始前で、時効取得されたのが相続開始後の場合、その土地は相続税の課税対象に含めなくてよいのでしょうか?
相続開始前に時効期間が経過していたら相続人にはどうしようもない
本件判決で確定した事実は、本件相続開始日において、本件土地には、時効の援用以外の取得時効の要件が満たされており、請求人らの意思いかんにかかわらず、相手方の時効の援用があれば一方的に所有権を時効取得される状態にあったということであり、これは、本件土地の価額に影響を及ぼすべき事情として、相続税の課税標準、ひいては税額の計算に影響を与えるものといえる。
そして、その財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するものであり、本件土地については、相続開始時において既に時効期間が経過しており、相続人にとっては、所有権を確保すべき攻撃防御方法がないために、相手方に時効を援用されれば所有権の喪失を甘受せざるを得ない状態の土地であることが本件判決の確定によって明らかとなったところ、このような状態の土地は、相続人が所有権を確保しようとすれば、時効を援用する相手方に対し、課税時期現在における当該土地の客観的交換価値に相当する金員の提供を要するのが一般的である土地ということができるから、そのことを価額に影響を与える要因として考慮すると、土地の価額と提供を要する金額が同額であるから、結局のところ、その財産の価額は零円になると理解するのが相当と認められる。
相続開始時点では、時効が援用されていないため、その土地は占有者のモノではありません。
ですから、相続人の方は、その土地を相続財産に含めて相続税の申告をしました。
しかし、その後、時効の援用により、その土地が占有者のモノとなったのですが、それは相続人の努力ではどうしようもないことですから、その土地は相続財産に含めなくてよい、とされました。
誰のモノかという「事実」が異なってしまったからしょうがない
請求人らは、本件相続に係る相続税の申告に当たり、本件相続開始日において、本件土地は相手方に対して使用貸借により貸し付けているという事実、換言すると、相手方による取得時効の完成が認められないという事実を基礎とし、そのため本件土地を自用地としての価額で評価して申告したが、その後の本件判決によって、本件相続開始日前には既に所有権の取得時効の期間が満了し、本件土地の取得時効は完成していたという事実が確定したものであり、このことは、申告の基礎とした事実と本件判決で確定した事実とに相違があるといえる。
今回のケースでは、相続後の訴訟により、時効取得が認められました。
その判決により、「土地の所有者についての事実」が変更されました。
このような場合には、「更正の請求」という手続きにより、相続税の申告のやり直し(その土地を相続財産から除外した申告)が認められます。
国税通則法(一部抜粋加工)
第23条 更正の請求
その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき
想う相続税理士