相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税も「貸借対照表」と「損益計算書」の関連性や「簿記」を意識して申告書を作成しましょう、ということについて、お話します。
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相続税の申告は「貸借対照表」だけ考えればいい?
相続税の申告は、亡くなった時点における財産の金額を元に計算します。
決算書だと「貸借対照表」です。
土地や預貯金等の資産から借入金などの負債を控除した純資産(正味財産)をベースに相続税を計算します。
ということは、売上高などが記載された「損益計算書」は関係ないのでしょうか?
そんなことはありません。
「貸借対照表」と「損益計算書」はリンクしている
3,000万円の売上があり、その代金が預金口座に入金された場合、会計上は次のような仕訳になります。
(借方)預金3,000万円
→貸借対照表の資産に計上
/
(貸方)売上高3,000万円
→損益計算書の収益に計上
売上高が3,000万円計上されれば、預金という財産も3,000万円増えるのです。
これを相続税の世界に置き換えると、亡くなった方が亡くなる前に株式を売却して3,000万円の収入があったのであれば、現金預金も3,000万円あるハズ(増えているハズ)ということになります。
つまり、大きな収入(入金)があったのに、もし財産が少なかったら(その収入に対応した財産が計上されていなかったら)「オカシイ(財産の計上もれがあるのでは?)」と税務署に見られる可能性がある、ということです。
多額の退職金を受け取ったり、不動産が高値で売れた場合も同様です。
儲けが無くても関係ない!
大昔に3,000万円で購入した株式を、3,000万円で売却した場合、儲け的には3,000万円△3,000万円=0円です。
儲けが出ていないから財産も計上されないのでしょうか?
そんなことはありません。
亡くなる前に3,000万円の株式売却収入があったのであれば、現預金も3,000万円あるハズ(増えるハズ)です。
入金が無くても関係ない!
3,000万円で株式を売却したけれども、売却代金が入金される前に亡くなったという場合、亡くなった時点では手元に株式が(売却したので)なく、入金される前なので現金預金もない(増えていない)ので、計上する財産はない、ということになるのでしょうか?
そんなことはありません。
売却代金が未収になっているだけですから、「未収入金」という財産を計上します(入金が後になる「売掛金」のような感じです)。
相続人の方は亡くなった方の代わりに株式の売却代金3,000万円を取得します。
それは、「未収入金」という財産を相続したからです。
口座から出金しても関係ない(場合もよくある)!
上記は入金が無くても、というお話でしたが、入金があった場合でも、そのお金を全部引き出して、預金口座の残高をゼロにしてしまえば、相続税がかからないのでしょうか?
そんなことはありません。
引き出して現金として持っているのであれば、貸借対照表の資産の部に「現金」として計上されます。
つまり、形が変わっていても、資産を所有していることに変わりありません(相続税は安くなりません)。
また、預金口座に多額の入金があった場合、それを贈与として出金する(した)ケースをよく見かけます。
資産の売却等により預金口座に多額の入金があると、「お金が入ったけど、自分が持っていると相続税がかかっちゃうから、みんなに贈与しよう」ということで親族の方等に贈与するのです。
この場合の注意点は2つです。
贈与がきちんと成立しているか?
子や孫の名義にしても、贈与が成立していなければ、親や祖父母のモノです。
つまり、その財産に相続税がかかります。
生前贈与加算の対象になっていないか?
贈与が成立しても、その財産をもらった方が将来の相続で財産を取得すると、その贈与が相続開始前「3年以内」(令和5年度税制改正により順次延長され最長「7年以内」になります)の贈与に該当した場合には、その贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算することになっています。
つまり、その贈与財産に相続税が課税されます。
想う相続税理士