相続税専門税理士の富山です。
今回は、死亡保険金の契約上の受取人は、単なる形式上の受取人であり、実質的な受取人が他にいる、とされた判決について、お話します。
出典:TAINS(Z038-1347)(一部抜粋)
大阪高裁昭和38年(ネ)第1652号贈与税賦課処分取消等請求控訴事件(控訴人大阪国税局長)(棄却)(確定)(納税者勝訴)
保険契約上の受取人が単なる名義上の受取人であると認定され、当該受取人に対する贈与税の決定処分が違法であるとされた事例
判決年月日 S39-12-21 (S38-10-31)
国税庁訴資 Z038-1347 (Z037-1241)
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死亡保険金の受取人は保険契約で決定されている
死亡保険金は、相続財産ではありません。
ですから、遺産分割協議の対象外です。
では、誰がもらうことになるかというと、保険契約において保険金受取人に指定されている方です。
相続税法5条1項にいう保険金受取人は、保険契約によつて決定された契約上(但し名義人という趣旨ではない)の受取人であること、右受取人が保険事故発生により取得する保険者に対する保険金債権が、右法案の所定要件を具えるときは、同法の課税対象になるものであることは、洵に控訴人等主張の通りであり、また本件保険契約上、保険金受取人の名義が被控訴人となつていたことについては、被控訴人自ら認めるところである
表面上は自分の言うことを聞く他の人を受取人にできる?
保険契約上殊に保険証券等の文書上に受取人として記載された者即ち名義人が、控訴人主張のように、常に右法条の受取人に該当するものと解することはできない。けだし、保険契約者が保険契約の表面上、通名、仮名、虚無人名又は自己の幼少の子女、家族若しくは雇人等、自己の事実上支配、使用し得る名義を用いて、その名義人以外の者、多くの場合、自己自身を示す氏名として用いることがあることは、世上往々にして見られるところであるから、かような場合はすでに当該保険契約上、保険者との関係においても、実質的な契約上の受取人は右名義人とは別人であつて、もしその必要が生ずるときは、右契約においても真実の受取人を探究する要があるけれども、保険者は右名義人に支払うことにより通常免責を受けるものであるから、多くの場合その探索の必要を見ないものであるに過ぎない。
実質的な死亡保険金の受取人が、形式上は受取人にはならず、自分のいうことを聞く他の人を契約上の受取人にすることは可能です。
そして、それ(実質的な受取人と契約上の受取人が違うこと)は、保険会社にとっては関係ないことなのです(契約どおりに契約上の受取人に支払えばOK)。
契約上の受取人が単なる名義上の受取人である「名義保険」もある
相続税の申告においては、名義財産の把握が重要です。
一般的なのは、親が子供に内緒で子供の名前で(子供の名前を使って・借りて)積む「名義預金」です(子供の名義になっていても亡くなった方の相続財産として相続税が課税されます)。
想う相続税理士秘書
その他にも、「契約者」と「保険料負担者」が異なる生命保険契約について、「名義保険」と言う場合がありますが、上記の例のように、契約上の保険金受取人が「名前を使われただけ」という名義保険(実質的な取得者と名義上の取得者が異なる保険)もあるのです。
税務は形式(名義)ではなく実質で判断する
他人名義の使用が、その名義人の全く不知の間に、しかも対外関係だけにおいてもその者に保険金受取の権利を得させる意思もなく、単にその名義使用者の一方的都合のみによりなされた場合の如きは、多少の困難は伴うとしても、課税は右の実質の有無を調査判定してなすべく、実質が存しなければ行わるべからざるものである。このことは単に保険課税の場合に限らず、預金、株式等の譲渡についても常に生ずる筈のところのものである。
実質的な受取人が、便宜上、自分が支配力を有する他の人を受取人にして、その死亡保険金を自分のために使ったりしているのであれば、その実態に合った課税を検討すべき、ということになります。
想う相続税理士