相続税専門税理士の富山です。
今回は、死亡保険金が支払われなくても相続税が課税される「生命保険契約に関する権利」について、お話します。
なぜ生命保険契約に関する権利には相続税がかかる?
生命保険に相続税が課税される、と聞くと、亡くなった方が加入していた生命保険契約があり、その死亡によりご遺族に死亡保険金が支払われる、というケースを思い浮かべる方が多いかもしれません。
死亡保険金が支払われ、その死亡保険金が相続税の課税対象となるのは、
被保険者 | 保険料負担者 |
亡くなった方 | 亡くなった方 |
のパターンの場合です。
これが、
被保険者 | 保険料負担者 |
亡くなった方以外(例:長男) | 亡くなった方 |
だったらどうなるでしょうか?
被保険者である長男がご存命であれば、この生命保険契約については保険事故が発生していないため、死亡保険金は支払われません。
それなら、相続税の申告には関係ないかというと、そんなことはありません。
その生命保険契約を相続で取得すれば、その後において「お金」に変えることができるからです。
契約者がその生命保険契約を解約すると「解約返戻金」という「お金」を受け取ることができるため、死亡保険金が支払われなくても、その生命保険契約には財産的な価値がある、ということになります。
その「解約返戻金」はなぜもらえるのかというと、亡くなった方が保険料を負担していてくれたからです。
つまり、その生命保険契約の財産的な価値は、亡くなった方に帰属するため、その財産的な価値(「解約返戻金」相当額)に対して、相続税が課税されるのです(財産名は「生命保険契約に関する権利」)。
生命保険契約に関する権利は保険契約者のもの
出典:TAINS(相続事例大阪局R050000)(一部抜粋加工)
誤りやすい事例(相続税関係 令和5年版) 大阪国税局資産課税課
(生命保険契約に関する権利を遺産分割して申告することの可否)
【誤った取扱い】
21 被相続人甲は、次の生命保険契約に係る保険料を全額負担していたことから、相続人間で遺産分割協議を行い、生命保険契約に関する権利をいずれもBが取得することとした。
①契約者甲、被保険者A、保険金受取人B
②契約者A、被保険者A、保険金受取人B
【正しい取扱い】
21 生命保険契約に関する権利は、保険契約者が有するものであるから、保険料を負担していた保険契約者が死亡した場合は、その権利は本来の相続財産となる。また、被保険者が保険料を負担し、かつ、被相続人以外の者が契約者である場合は、その契約者が生命保険契約に関する権利を相続又は遺贈により取得したものとみなすこととされている(相法3①三)。
したがって、①の契約に係る権利は、本来の相続財産となるから、遺産分割協議の対象となるが、②の契約に係る権利は、遺産分割協議の対象とはならず、契約者であるAが相続又は遺贈により取得したものとみなされる。
上記①の生命保険契約は、相続が発生して契約者が亡くなったため、その生命保険契約を誰かが相続で取得すると同時に、その新たな契約者となり、相続税が課税されます。
上記②の生命保険契約は、相続が発生しても契約者が亡くなっていないため、契約者はそのままですが、その相続の発生により、その生命保険契約の財産的な価値が契約者に移転するため、そこで相続で取得したものとみなして、相続税が課税されます。
想う相続税理士
相続の発生により、死亡保険金が支払われても、支払われなくても、相続税が課税される可能性がありますので、ご注意を。