相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続開始前の多額の資金移動の税務上の取扱いについて、お話します。
税務署は通帳の動きをチェックする
相続が発生すると、市区町村役場は、税務署にその相続の発生を通知します。
相続税法
第58条 市町村長等の通知(一部抜粋)
市町村長その他戸籍に関する事務をつかさどる者は、死亡又は失踪に関する届書を受理したときは、当該届書に記載された事項を、当該届書を受理した日の属する月の翌月末日までにその事務所の所在地の所轄税務署長に通知しなければならない。
その通知を受け、税務署は亡くなった方やその親族の方の金融機関の口座をチェックします。
定番の勘違いをしていないかチェックされる
「相続財産」と言うと、亡くなった方の名義になっている財産だけを指すと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
「子供のために良かれと思って内緒にして積んでいる定期預金」や「夫婦は一体なんだから、旦那さんのお金は自分のお金、と思って、奥さんが自分名義の口座に預け入れているお金」。
これらの資金の移転が贈与として成立するのであれば、相続税の申告とは関係ありません。
しかし、子供が知らないということは贈与は成立していませんし、「配偶者間ならいくらでも無税でお金を動かしていい」なんて法律もありません。
これらは「名義預金」(ザックリ言うと、亡くなった方が子供や奥さんの名義を借りた預金)として税務署に指摘される可能性があります。
想う相続税理士
相続財産じゃなければセーフ?
過去の資金移動が「贈与」だというのであれば、「相続税の課税対象」にはなりません。
その代わり、「贈与税の課税対象」になります(非課税贈与になる場合を除く)。
相続税がかかるのが嫌だ、という方は、将来相続人になる方に、生前に先に贈与して、相続財産を減らそうとします。
税務署もそれが分かっているので、その贈与には、高額の贈与税を課します。
想う相続税理士秘書
このことから、「贈与税は相続税の補完税」と言われます。
税務署に指摘されたときに「相続財産じゃない」と主張してそれが通ったとしても、贈与財産と認定されれば、高い贈与税と無申告加算税を支払わなければならなくなることがある、ということです。
3年以内の贈与は贈与税→相続税の順に課税対象となる
亡くなった方から相続で財産を取得した方が、亡くなる前3年以内にその方から贈与により取得した財産は、相続税の課税対象となります。
110万円以下の贈与で、「贈与税がかからずに財産を取得できた」と思っても、その方が3年以内にお亡くなりになり、その相続で財産を取得すれば、その贈与財産は相続税の課税対象になります。
贈与の時に贈与税がかかっている場合、相続税もかかると、二重に税金がかかることになってしまうため、相続税の申告の際、払った贈与税を引いて相続税を計算することができます(「贈与税額控除」と言います)。
ただし、例えば、引く前の相続税が200万円で、その贈与で払った贈与税が300万円の場合、
200万円-300万円=△100万円
となりますが、この100万円は返ってきません。
これはどういうことかというと、結果的に相続税はゼロだけれども、贈与税は300万円払いっぱなし、ということです。
全体の税負担は、
相続税0円+贈与税300万円=300万円
です。
もし、その贈与財産を贈与に取得せず、相続で取得すれば、
相続税200万円+贈与税0円=200万円
となりますので、100万円税金が安く済む、ということになります。
想う相続税理士