相続税専門税理士の富山です。
今回は、生命保険金がある場合の相続放棄について、お話します。
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相続税はかかるが相続財産ではない生命保険金
亡くなった方がご自分に掛けていた生命保険金を受け取った場合、その生命保険金は相続税の課税対象となります。
相続税の課税対象にはなりますが、相続財産と「みなして課税」しているだけで、相続財産ではありません(「みなし相続財産」と言います)。
相続税法(一部抜粋加工)
第3条 相続又は遺贈により取得したものとみなす場合
次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金又は損害保険契約の保険金を取得した場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分
「課税するために(相続財産と)みなしているだけ」で、「実際には相続で取得するモノ(相続財産)ではない」のです。
相続で取得するモノではないので、誰が受け取るかを他の相続人と協議する必要もありません。
受取人は、保険契約において既に定められて決まっています。
借入金や保証債務を引き継ぎたくない場合
多額の借入金や保証債務がある方が亡くなった場合、その債務や保証債務は相続人が引き継ぎます。
しかし、相続放棄をすることによって、それを免れることができます。
相続人ではなくなるからです。
民法(一部抜粋)
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができる
最初にお話したように、生命保険金は相続財産ではありません。
受取人の固有の財産です。
ですから、相続放棄をしても受け取ることができます。
生命保険金・借入金に対する相続税の課税に注意
相続放棄をしないと、借入金を引き継ぐことになります。
相続放棄をすると、借入金を引き継がなくてよくなります。
どちらのパターンでも生命保険金を受け取ることができます。
それなら相続放棄をした方が良さそうですが、相続放棄をしないと、受け取った生命保険金について、500万円×法定相続人の数で計算される非課税枠を適用することができます。
法定相続人が3人であれば、500万円×3人=1,500万円ですから、1,500万円の生命保険金であれば、無税に(相続税は課税されない)になります。
また、相続放棄をしないことにより借入金を引き継ぐことになりますが、相続税は正味財産(プラスの財産とマイナスの財産を相殺した後に残った財産)に対して課税するため、借入金を引き継ぐことにより相続税は安くなります。
上記の非課税枠は、相続放棄をすると適用することができません(相続を放棄していない、相続権を失っていない相続人にのみ適用できます)。
ですから、生命保険金の金額が大きく、借入金の金額が小さい場合には、相続放棄をすることにより、借入金を返済しなくてよくなっても、生命保険金に課税される相続税が(非課税枠を適用できないことにより)高くなり、かえって手元に残るお金が減ってしまう、ということが起こり得ます。
保証債務は借入金と取扱いが異なるので注意
先ほどお話したように、相続税はプラスの財産(生命保険金)からマイナスの財産(借入金)を差し引いた(相殺した)後の正味財産に課税されます。
このマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」と言うのですが、保証債務は原則として、この債務控除の対象となりません。
ですから、保証債務がある場合の相続放棄をした方がいいかどうかのシミュレーションは、借入金の場合とはちょっと異なります。
想う相続税理士