【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

同一銘柄の相続取得株式と既存所有株式がある場合の取得費加算の特例の適用

相続税専門税理士の富山です。

今回は、同一銘柄の相続取得株式と既存所有株式があった場合に、その一部を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用について、お話します。

出典:TAINS(所得事例700494)(一部抜粋加工)
東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官(令和6年7月作成)
「資産税質疑事例集」


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売った株式等の儲けの計算において相続税が経費になる場合がある

譲渡損失が発生している場合や譲渡所得が少ない場合の取得費加算の特例の適用可否

上記の記事でお話したとおり、相続で取得した株式等を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、その譲渡所得(儲け)について確定申告する際に、納付した相続税の一部(その譲渡した資産に対応する相続税)を経費にすることができます。

これを、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」といいます。

相続取得株式と既存所有株式が混在している状態で譲渡した場合は?

甲は、X1年8月にA社株式20,000株を16,000千円で購入し所有していたところ、X4年10月に甲の父である乙が死亡したことに伴い、乙が所有していたA社株式10,000株を相続したため、甲はA社株式を合計30,000株所有することとなった。
その後、甲がX5年3月にA社株式20,000株を丙株式会社に20,000千円(1株当たりの単価1千円)で売却した

甲が相続により取得したA社株式は、乙がX2年8月に11,000千円で購入したもの

乙の相続に係る甲の相続税の申告(期限内申告)の内容は、
*課税価格:300,000千円
*A社株式(10,000株)の相続税評価額:9,000千円
*相続税額:100,000千円

では、上記のように、相続で取得した株式と同一銘柄の株式を元々所有していて、その銘柄の株式を一部譲渡した場合、つまり、同一銘柄の相続取得株式と既存所有株式が混在している状態でその一部を譲渡した場合、取得費加算の特例はどのように適用するのでしょうか?

先入先出法的に、先に所有していた既存所有株式を譲渡し、その次に相続取得株式を譲渡した、と考えるのでしょうか?

相続取得株式を譲渡したものとして計算できる

租税特別措置法通達39-12《同一銘柄の株式を譲渡した場合の適用関係》では、相続により株式を取得した個人が当該株式と同一銘柄の株式を所有している場合において、措法第39条第1項に規定する特例適用期間内に、これらの株式の一部を譲渡したときには、当該譲渡については、当該相続により取得した株式の譲渡からなるものとして、同項の規定を適用して差し支えない旨定められている

上記のように同一銘柄の相続取得株式と既存所有株式が混在している状態でその一部を譲渡した場合には、先に相続取得株式を譲渡したものとして、取得費加算の特例を適用することができます。

具体的な取得費及び譲渡所得の金額の計算方法

上記の場合の具体的な取得費及び譲渡所得の金額の計算方法は以下のとおりです。

想う相続税理士

譲渡費用はないものと仮定して計算します。

「取得費」自体は総平均法に準ずる方法で計算する

「同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入し、その株式等の一部を譲渡した場合の取得費は、総平均法に準ずる方法によって求めた1単位当たりの価額を基に計算します」(国税庁HP・タックスアンサー・No.1464 譲渡した株式等の取得費)ので、取得費は

(既存所有株式16,000千円+相続取得株式11,000千円)/譲渡前全株数30,000株=1株当たり取得単価900円
900円×譲渡株数20,000株=18,000千円

となります。

相続取得株式については、甲の取得費を引き継ぎます。

想う相続税理士秘書

取得費加算の特例を計算する

経費化する「その譲渡した資産に対応する相続税」は、次のように計算します。

相続税額100,000千円×A社株式の相続税評価額9,000千円/課税価格300,000千円=3,000千円

取得費加算の特例の適用制限に注意

譲渡損失が発生している場合や譲渡所得が少ない場合の取得費加算の特例の適用可否

同一銘柄の株式を譲渡した場合であっても、上記の記事でお話した取得費加算の特例の適用制限の話が出てきます。

取得費加算の特例は、相続取得株式の譲渡所得(儲け)にしか適用できません。

何も考えずにそのまま3,000千円を使うと、既存所有株式の譲渡所得(儲け)にも適用してしまうことになる可能性があります。

そこで、取得費加算の特例を適用しない状態で、相続取得株式の譲渡所得(儲け)がいくらかを計算し、その金額を限度として、取得費加算の特例を適用します。

相続取得株式に係る取得費加算の特例を適用しない場合の譲渡所得(儲け)
=(1株当たりの売却単価1千円×相続取得株式数10,000株)△(1株当たりの取得単価900円×相続取得株式数10,000株)=1,000千円

計算された取得費加算の特例の金額3,000千円は、上記の1,000千円を超えているため、3,000千円のうち適用できるのは1,000千円だけであり、2,000千円は適用できません。

最終的な譲渡所得の金額

売却金額総額20,000千円△(取得費18,000千円+取得費加算の特例1,000千円)=1,000千円

が、譲渡費用はないものと仮定して計算した場合の譲渡所得の金額となります。

想う相続税理士

「先に相続取得株式を譲渡した」ものとして取得費加算の特例を適用できますが、「相続取得株式の譲渡所得の金額の範囲内」という適用制限がありますので、ご注意を。