相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続放棄をすることが、遺言で財産を取得する方に対してマイナスになるケースについて、お話します。
遺言があれば遺産分けは遺言が優先される
民法(一部抜粋)
(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
相続が発生し、遺言が残されていた場合、原則として、その遺言の内容にしたがって遺産分けが行われることになります。
「民法に規定されている法定相続分で遺産分けをするのでは?」と思われるかもしれませんが、亡くなった方(遺言者)の意思である遺言の方が優先されます。
遺言で財産を取得しなければ債務も引き継がなくていい?
裁判所HP(一部抜粋加工)
最高裁判所判例集
事件番号:平成19(受)1548
事件名:持分権移転登記手続請求事件
裁判年月日:平成21年3月24日
裁判要旨:相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。
夫が亡くなり、相続人が妻・長男・二男の3人だとします。
「妻に財産全部を相続させる」という遺言が残されていたとします。
このような場合、上記の最高裁の判決を読むと、「当該(財産全部を相続する)相続人が相続債務もすべて承継したと解され」とあるので、もし仮に夫に多額の借入金があったとしても、妻がその借入金を全部承継することになるので、長男・二男は借入金の返済をしなくてもいいのでしょうか?
そんなことはありません。
全文(一部抜粋加工):上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。
金融機関が「返済しなくてもいいよ」と認めた場合は別として、そうでない場合には、金融機関は長男・二男にも借入金の返済を求めてきます(求めることができます)。
相続放棄をすれば財産も相続できない代わりに債務も負担しなくていいけど・・・
相続放棄をすれば、相続人ではなくなるので、財産を相続できないけれども、債務も引き継がなくてよくなります。
亡くなった方に借入金があっても、その返済から免れることができます。
上記の場合(仮に夫に多額の借入金があった場合)に、金融機関から借入金の返済を求められたくない長男が、相続放棄をしたとします。
二男にもその話をしましたが、二男は「自分は相続放棄をしない」と言っています。
その後、二男は、妻に対して「遺留分侵害額の請求」をしました。
民法上、相続人には「遺留分」という「最低限の財産の取り分」が認められているため、その遺留分に相当するお金の支払を妻に請求したのです。
この場合、長男が相続放棄をしたことにより、二男の遺留分は2倍になります。
〔長男の相続放棄前〕
1/4(二男の法定相続分)×1/2(相対的遺留分)=1/8
↓
〔長男の相続放棄後〕
1/2(二男の法定相続分)×1/2(相対的遺留分)=1/4
妻は、長男が相続放棄をしたことにより、二男に対して2倍の金銭の支払をしなければならなくなったのです。
想う相続税理士