相続税専門税理士の富山です。
今回は、小規模宅地等の特例の選択替えについて、お話します。
一部分割があると厄介
財産の一部のみの遺言はこんなに危険!対処法は?上記の記事でもお話しましたが、小規模宅地等の特例は、その適用できる土地が複数ある場合、どの土地に適用するかについて、その特例が適用可能な土地を取得したすべての方の同意が必要です。
上記の記事には、
適用対象となる土地はア土地とイ土地だけ
遺言には「ア土地をAさんに相続させる」ということだけが書かれている
遺産分けはまとまっていない
という例が載っていますが、10ヶ月以内の当初申告では、取得者が決まっているア土地については、小規模宅地等の特例が適用可能なのですが、その要件として、Bさんの同意も必要です。
イ土地の取得者の同意も必要だからです。
未分割のイ土地は共有状態になっているため、イ土地の相続分を有するのは、相続人であるAさん・Bさんです。
特例が適用可能なイ土地の相続分を有するBさんの同意も必要なのです。
Bさんが後でイ土地を取得するつもりで、そのイ土地に特例を適用したいと思えば、ア土地への適用には同意しないでしょう。
この場合、その対応策として、ア土地もイ土地も、つまり特例が適用可能な土地をすべてAさんに相続させていれば、同意が必要なのはAさんのみということになりますから、当初申告で小規模宅地等の特例を適用することができました。
しかし、その対応策は、相続が発生する前の遺言を作成するときにしかできないことです。
小規模宅地等の特例は原則一発勝負
小規模宅地等の特例は、一度選択したら、後で修正することはできません。
例えば、上記のア土地・イ土地をAさんが遺言により相続し、当初申告ではア土地を選択して申告書を提出したものの、よくよく考えたらイ土地を選択した方が相続税が安くなることに気づいたので、イ土地を選択して申告をやり直す、なんてことは認められません。
ア土地を選択することも適法、イ土地を選択することも適法だからです。
ア土地を選択したことに間違いがないのですから、やり直しはできません。
小規模宅地等の特例の選択替えができる場合がある
上記の例では、ア土地・イ土地どちらも適用対象になるという前提になっていますが、実はア土地が小規模宅地等の特例の適用対象とはならない土地だったとしたら、どうなるでしょうか?
そのア土地を選択して当初申告をした場合、それは不適法な選択による申告です。
つまり、(ア土地を選択しても相続税が安くならないのに)誤って安く計算してしまっている申告ということになります。
この場合には、イ土地を選択して(土地の選択をやり直して)、その後の修正申告・更正の請求をすることが可能です。
つまり、当初申告で間違えていれば、その後の修正申告・更正の請求で選択が可能になるのです。
想う相続税理士
ということは、当初申告でBさんの同意が得られない場合、
①小規模宅地等の特例の適用を泣く泣くあきらめて当初申告をする(この場合には永遠にア土地について適用が受けられません)
よりは、
②いずれかの土地を(同意を得ずに)不適法に選択して当初申告を提出する
方が、後からア土地に特例を適用できる可能性を残せるという点ではいいのでしょうか?
申告期限を3日経過した後にBさんが「ゴメンゴメン、やっぱり、ア土地を選択することに同意するよ」と言ってきても、①だともう手遅れですが、②なら更正の請求が可能ですからね!