相続税専門税理士の富山です。
今回は、家の値段が上がっている状況で、どのようにマイホームの購入資金を子や孫に贈与するか、ということについて、お話します。
家の値段と贈与税の非課税枠と非課税要件
家の値段が上がっています。
お金が出せなければ、建てる家を小さくするか、家を建てない、賃貸のままにする、ということになります。
しかし、子供の学校の関係で、来年中には家を建てたい、なんて場合もあるでしょう。
自分にお金がなくても、親や祖父母などがお金を出してくれる、という場合もあるでしょう。
「お金をもらえるのはありがたいけど、もらったら贈与税がかかっちゃうでしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」を適用できれば(一定の要件があります)、贈与税が非課税になります。
しかし、その贈与税非課税枠は次のようになっています。
住宅用家屋の種類 | 省エネ等住宅 | 左記以外 |
R6~R8 | 1,000万円 | 500万円 |
もらったお金だけで家を建てるのは、難しそうです。
また、適用できるのであれば、上記の非課税枠のうち、大きい方の金額(1,000万円)を適用したい、とお考えになるかもしれませんが、この1,000万円の非課税枠を適用するためには、ZEH水準(断熱等性能等級5以上(結露の発生を防止する対策に関する基準を除く。)かつ一次エネルギー消費量等級6以上)等を満たす必要があります。
想う相続税理士
相続時精算課税制度の活用を検討する
通常、生前贈与がネックとなるのは、多額のお金を贈与した場合に、贈与税が跳ね上がる、ということです。
暦年課税による贈与で、親や祖父母などから18歳以上の子や孫などに2,500万円のお金を贈与した場合、800万円超の贈与税がかかります。
実効税率が簡単に30%を超えてしまいます。
実は、この暦年課税の他にもう一つ、「相続時精算課税」という贈与税の課税方法のパターンがあります。
相続時精算課税には、2,500万円の特別控除額と、今年から新設された毎年110万円の基礎控除額があります。
また、通常の相続時精算課税の場合、「『60歳以上の』親または祖父母などから」という要件があるのですが、「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税選択の特例」を適用できれば、この要件が「親または祖父母などから(贈与者が60歳未満でもOK)」になります。
ですから、相続時精算課税による贈与で、親や祖父母などから18歳以上の子や孫などに2,500万円の住宅取得等資金を贈与した場合、贈与税を0円にすることができます。
大きな特別控除額(2,500万円)があるため、多額のお金を贈与しても贈与税がかかりにくく、また、贈与税がかかったとしても(適用できる特別控除額+基礎控除額を超えたとしても)、適用される贈与税率が一律20%となっているため、暦年課税のように贈与税が跳ね上がる、ということはありません。
ただし、「相続時精算課税による贈与財産は一定の金額が相続税の課税対象」となります。
つまり、贈与税がかからなくても、後から相続税がかかる場合があるのです。
このデメリットをきちんと考慮した上で、相続時精算課税を活用するのも一つの手です。
想う相続税理士秘書
住宅ローンの返済資金の贈与を受ける
相続時精算課税を選択した場合、従来は「相続時精算課税による贈与財産は『全額が』相続税の課税対象」でした。
それが、令和5年度税制改正により、令和6年以降の贈与については、毎年110万円の基礎控除額が新設されました。
この金額の範囲内であれば、相続税も贈与税もかからない非課税贈与を毎年受けることができます。
マイホーム購入資金のうち、「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」や「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税選択の特例」を使っても足りない分については、金融機関で借入(住宅ローン)をして、その返済資金に毎年の非課税贈与を充てれば、実質的にマイホームの購入資金を無税で調達することができます。
(それでもお金が足りなければ)親や祖父母などの名義で家を建てて借りて住む
相続時精算課税の110万円の基礎控除額を活用しても、マイホームの購入資金に足りなそうな場合にはどうすればいいのでしょうか?
子や孫などの所有物として(名義で)家を建てようとするから、それに必要なお金を贈与する、という話になります。
いっそのこと、お金を持っている親や祖父母などがご自分の所有物として(名義で)家を建て、そこに子や孫などが住むことにすれば、お金を贈与する必要はなくなりますし、親や祖父母などの相続税対策になる場合もあります。
ただし、タダで住むということは、家賃相当額の贈与が発生していることになります。
そうすると、毎年贈与税がかかってしまうのでしょうか?
相続税法基本通達(一部抜粋加工)
9-10 無利子の金銭貸与等
夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。
家賃相当額が少額、または、課税上弊害がなければ、贈与税はかからず、仮に課税上弊害があったとしても、暦年課税の基礎控除額や相続時精算課税の基礎控除額に収まっていれば、贈与税はかからない、ということになります。
想う相続税理士
また、(自分のモノではないため)自分たちの自由にできないという制約が生じることがあることや、所有者が認知症等になった場合のリスク、他の相続人の見る目にも留意する必要がありますので、ご注意を。