相続税専門税理士の富山です。
今回は、贈与された財産の評価額が下落した場合の相続時精算課税制度における不利な影響について、お話します。
贈与時の評価額で課税されることの意味
相続時精算課税制度では、贈与を受けた財産の評価額は「贈与時点の評価額」で確定されます。
そしてその金額のうち基礎控除額を控除した残額が、将来の相続税計算時に相続財産として持ち戻され、相続税額を算定する基礎となります。
つまり、仮に不動産や株式などの価値が、贈与時点よりも大きく下落していたとしても、相続税の計算上は「『高かった時の評価額』が使われる」ということです。
相続時の評価額ではなく、過去の評価額がそのまま持ち戻しされるため、実際には価値のない財産についても高額な相続税が発生する可能性があるのです。
これが、相続時精算課税制度を選択する上で見逃されがちな、しかし極めて重要なリスク要因の一つです。
想う相続税理士秘書
財産の性質によって生まれる大きな損得差
相続時精算課税制度で贈与する財産の種類によって、このリスクの影響は大きく異なります。
特にリスクが高いのは、不動産や非上場株式、その他評価額が変動しやすい資産です。
以下のようなケースが代表例です。
想定外の経営環境の変化により業績が悪化し、非上場株式の評価額がゼロに
換金性が高いから相続税の納税資金に充ててもらおうと思っていた上場株式が大幅に下落
こうしたケースでは、「贈与時に評価額が高かったこと」が裏目に出て、実際にはトクをしていないにも関わらず、相続税の課税対象が増えるという非常に不利な状況に陥る可能性があります。
また、贈与された側が資金に余裕がなければ、相続時に生じる納税義務を負いきれず、最悪の場合には資産の売却を余儀なくされることもあるのです(非上場株式などのように売却することが困難な場合もあります)。
評価額の下落リスクは必ず頭に入れておく
相続時精算課税による贈与のメリットは何でしょうか?
令和6年分以降の贈与に新設された基礎控除額(絶対的非課税枠)が適用できることでしょうか?
財産が多い方については、その効果は限定的です。
なぜなら、1年間に110万円しか贈与できないからです。
それを超える部分は必ず相続税が課税されます。
評価額が安いうちに贈与すれば、相続時に値上がりしていても(評価額が高くなっていても)、その値上がり分を除外して申告できる、というところが最もオイシイ点です。
しかし、値上がりするかどうかは分かりません。
値上がりすると信じていても、その保証はありません。
このような財産価値の下落リスクを認識した上で、相続時精算課税制度を選択しましょう。
想う相続税理士
特に評価変動が激しい財産を贈与する場合、その選択が将来の税負担を増やす原因になることもあります。
「贈与=節税」と安易に考えず、財産の性質と将来の相続税計算の仕組みを理解した上で判断することが不可欠です。
心配な場合は、相続税専門の税理士とともに、将来まで見据えた贈与・相続計画を立てておくことをおすすめします。