【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

生命保険契約を相続で取得した?それとも保険料充当用の現金の贈与を受けた?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、保険料に充当された現金の贈与が成立していたかどうかが争われた事例についてお話します。

出典:TAINS(F0-3-794)(一部抜粋加工)
令04-03-02裁決


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孫への現金贈与が成立していないとどうなる?

相続で財産を取得する方に生前贈与をした場合、その贈与が相続開始前3年以内の贈与に該当すると、「生前贈与加算」の対象になり、その贈与財産には相続税が課税されます(「3年」は令和5年度税制改正より最高「7年」に延長されます)。

つまり、相続税対策として贈与をしても、相続税がかかってしまうのです。

そこで、孫に生前贈与により現金を贈与します。

孫がその現金を保険料の原資にして生命保険契約に加入します。

孫は通常、相続人ではありません。

(遺言等により)相続で財産を取得していなければ、その現金の贈与は「生前贈与加算」の対象とならず、相続税対策が可能です。

しかし、その現金の贈与が成立していない場合、その現金は亡くなった方のモノです。

そうすると、孫が加入した生命保険契約は、「亡くなった方が保険料を負担した生命保険契約」になるので、亡くなった方の財産(相続財産)として、相続税の課税対象になります。

亡くなった方は署名していなかった

争点についての主張・請求人ら(納税者側)

本件被相続人(亡くなった方)は、請求人■■及び請求人■■に対し、本件被相続人を代理して、本件被相続人の全財産について、不動産、有価証券、現金の順で贈与するよう指示しており、本件各贈与契約は、そのような本件被相続人の指示に基づき、請求人■■が本件被相続人の代理人として行ったものである。
なお、本件各贈与契約書における本件被相続人の署名部分は、請求人■■が記載したものであるが、署名代理の方法により署名したものであるから、代理行為として顕名の要件も満たしている
したがって、本件各贈与契約は代理権に基づき行われた行為であり、贈与を受けた本件各現金によって本件各保険料が支払われているから、本件各保険料の負担者は、請求人■■■であって本件被相続人ではない。

納税者側は、亡くなった方は贈与契約書に署名していないが、代理権を授与された方が署名しているから、保険料充当用の現金の贈与契約は有効に成立している、と主張しました。

それに対して、税務署側は次のように主張しました。

争点についての主張・原処分庁(税務署側)

次のことからすると、本件各贈与契約は成立していないから、本件各保険料を負担したのは、本件被相続人である。
(1)本件各贈与契約書には、請求人■■が本件被相続人の代理人である旨の表示(顕名)がなく、本件各贈与契約において代理行為は成立していない。
(2)本件各贈与契約に係る代理権に関する請求人らの主張は、本件各贈与契約は本件被相続人の意思に基づくもので、本件被相続人から直接請求人■■■に贈与されたものである旨の本件調査の時における請求人らの一貫した申述から変遷しているものの、請求人らから変遷した理由についての主張はなく、その変遷に合理的理由が見当たらないから信用することはできない。
また、請求人■■及び請求人■■が代理することになった時期や代理の内容も具体的なものでなく、代理権が授与されたことを裏付ける客観的証拠はないことからすれば、本件各贈与契約は代理権に基づき行われた行為ではない

「代理人である旨の表示(顕名)」がない(その他の証拠もない)ので、贈与契約における代理行為は成立していない、と主張しました。

代理権の授与はあったのか?

現金の贈与は成立していたのでしょうか?

亡くなった方の署名のない贈与契約書は無効なのでしょうか?

「代理人である旨の表示(顕名)」がなかったことについて

国税不服審判所は、

民法第99条第1項は、代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる旨規定しているところ、有効な代理行為と認められるためには、代理人に代理権があり、かつその行為が代理権の範囲内でなされなければならない。また、同項の規定によれば、代理人が本人のためにすることを示すこと(顕名)が必要である

としつつ、

この点につき、代理人の氏名を示さずに直接本人の名で契約を締結するという代理行為であっても、相手方としては、契約の相手について正しく情報を得ていることから、基本的に顕名主義に抵触せず、代理行為は有効とされている

としています。

その上で、

被相続人所有の土地及び株式が、平成5年以降、贈与税の負担も考慮しながら、請求人A及びその家族並びに請求人B及びその親族に対し贈与されていることや、請求人孫等は、本件各贈与契約に関する手続を請求人Aが代理人として行っていたものと認識していたことからすると、顕名の観点からは、本件各贈与契約における請求人Aの代理行為が無効なものとは認められない

と判断しています。

他の財産も含めた計画的な贈与の実態があった

贈与契約書に問題がなかったのであれば、贈与は成立するのでしょうか?

平成5年以降に行われた被相続人所有の土地及び株式の贈与について、被相続人が、当該贈与の取消しや異議を申し立てたといったような事実は見当たらないこと、贈与の対象財産を土地及び株式に限るとする証拠や事情は見当たらないことに加え、本件代理権が授与されていなかったことを示す具体的・客観的な証拠も見当たらないことを総合勘案すると、被相続人は、自身に帰属する全財産を相続人らやその子供らに対し贈与するという自らの意思に基づいて、請求人Aや請求人Bに対し贈与に必要な手続を包括的に委任し、その委任に基づき、請求人Aや請求人Bが、贈与税の負担も考慮しながら計画的に贈与を行ってきたものと考えるのが自然かつ合理的である

以上のとおり、顕名の観点から本件各贈与契約における請求人Aの代理行為は無効とはいえないことに加え、本件各贈与契約に至るまでの間の、被相続人からその親族に対する財産贈与の実情を併せて総合勘案すれば、被相続人から請求人Aに対し本件代理権の授与がなかったということはできない

被相続人から請求人Aに対し本件代理権の授与がなかったと認められないことからすると、本件各贈与契約が無権代理により無効であるとはいえず、また、原処分庁からは、顕名がないことのほかに、本件各贈与契約が無効であることについての客観的な証拠に基づく主張立証がなく、この点を根拠として、被相続人が本件各保険料を負担したとする原処分庁の主張には理由がないこととなる。そうすると、被相続人が本件各保険料を負担したとは認められないことから、各保険契約に関する権利は、相続税法第3条第1項第3号に規定する遺贈により取得したものとみなされる財産には該当しない

としています。

想う相続税理士

「贈与契約書なんて贈与者の代わりに親族が署名しても大丈夫、だから、贈与なんて簡単にあったことにできる」というワケではありません。

贈与が成立する要素(贈与者・受贈者の意思表示・受諾)がきちんとあり、実際の贈与の手続き(ご高齢だったりすると、ご自分でやるのは大変な面はあると思います)は委任者が行っていた、そして、贈与は全体の財産を計画的に行う内容になっており、それに伴って実行されていて(実態がある)、保険料充当用の現金の贈与は、その一環である、ということのようです。