相続税専門税理士の富山です。
今回は、税務調査対策としての贈与税申告について、お話します。
110万円をちょっと超える贈与
110万円を贈与するのも、111万円贈与するのも、そんなに変わりません。
額面的には、1万円の差です。
「額面」とはどういうことかというと、111万円の場合には贈与税がかかるため、手取りは111万円になりません。
暦年課税による贈与の場合、年間110万円の非課税枠が設けられており、それを超えると贈与税が発生しますが、111万円の場合、1,000円の贈与税がかかります。
110万円ピッタリなら、ちょうど贈与税の非課税枠内ですので、贈与税はかかりません。
贈与税の申告をする必要もありません。
でも、111万円だと、贈与税の申告をして、贈与税も払わなければなりません。
少額と言えども、何もしないのに比べたら面倒ですよね。
それでも、111万円の贈与をする方がいます(勧める方もいます)。
111万円の贈与をする方は、111万円ちょうどの金額を渡したいのではありません。
贈与税の申告をしたいのです。
でも、贈与税は、できるだけ払いたくないのです。
そこで、111万円の贈与をするのです。
贈与税の申告をして贈与税を納付するメリットとは?
なぜ贈与税の申告納付をしたいのかというと、将来、税務調査があった時に、ちゃんと贈与でお金が動いている、という証拠に使いたいからです。
例えば、父が子に100万円の贈与をして、その後、父が亡くなったとします。
その父の相続税の税務調査の時に、その100万円の贈与が成立していない、とみなされると、その100万円は贈与されていないのだから父のモノ、ということになり、相続税が課税されてしまいます。
そうならないよう、税務調査で指摘されたら、「申告納付してますよ」と主張できるよう、贈与税の申告と納付をするのです。
贈与税の申告をしても贈与にはならない
贈与税の申告の流れはこうです。
↓
②贈与額が年間110万円を超えたので贈与税の納税義務が生じた
↓
③贈与税の申告納付をした
111万円の贈与をする方は、「③をすることにより①を成立させたい」のです。
でも、それは矢印の流れ的には逆です。
よくよく考えていただくとお分かりのとおり、③をしたからといって、①は成立しません。
なぜなら、贈与税の申告は勝手にできるからです。
父が勝手に子の名前で申告書を作成し、税務署に提出しても、税務署は受け付けてくれるでしょう(控を持参すれば収受印を押してくれるでしょう)。
しかし、それによって贈与が成立したことにはなりません。
受付の方が機械的に受け付けて収受印を押すだけです。
民法(一部抜粋)
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
贈与が成立するかどうかは、あくまでも「民法」上の話です。
「税務」上の手続きを適正にしたからといって、贈与は成立しません。
想う相続税理士