【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続後の売却金額をベースにマンションの相続税評価額を計算していいとされた事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続税の申告においてマンションを評価するにあたり、「『相続後の売却金額』を『死亡日時点に時点修正』した金額」を、相続税を計算する際の評価額として採用していい、とした裁決事例について、お話します。


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相続財産は時価で評価する

相続税法(一部抜粋加工)
第22条 評価の原則
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

相続税の計算をする際、その財産の評価額は、亡くなった日時点における時価で計算します。

時価=財産評価基本通達に従って計算した金額

財産評価基本通達(一部抜粋加工)
1 評価の原則
財産の評価については、次による。
(2) 時価の意義
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による
(3) 財産の評価
財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する。

「じゃあ、時価ってどうやって計算するの?」ということになるのですが、それは、財産評価基本通達に従って計算します。

それが相続財産の時価ということになります。

出典:TAINS(F0-3-249)(一部抜粋)
平22-09-27裁決
しかしながら、各種の財産の客観的な交換価値を適正に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて、合理的である上、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことが、租税負担の実質的公平をも実現し、租税平等主義にもかなうことから、財産評価の一般的基準である各種財産の時価に関する原則及びその具体的評価方法等を評価基本通達に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。

通達(財産評価基本通達)は、法律ではありません。

納税者(国民)に向けて作られたものではありません。

上位の行政機関から下位の行政機関への「命令・指示」です。

ちなみに、財産評価基本通達は、国税庁長官が国税局長に「相続税および贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱を下記のとおり定めたから」「これにより取り扱われたい」「命令・指示」したモノです。

それが公開されていて、それを元に評価する、ということになります。

想う相続税理士秘書

財産評価基本通達は絶対ではない

もっとも、財産の相続税評価額が相続開始時におけるその財産の時価を上回っているなど、評価基本通達により難い特別の事情がある場合には、評価基本通達により財産を評価せず、他の合理的な方法により財産を評価すべきものと解するのが相当である。

財産評価基本通達は、法律ではないのですから、絶対それに従って評価しなければならない、というワケではありません。

今回ご紹介する裁決事例では、相続財産であるマンションについて、実際に売却した金額をベースに評価していい、という結論になりました。

1 本件マンションは、種々の固有の事情が認められるところ、A不動産販売による価格の査定、同社との媒介契約の状況及び売買契約に至るまでの経緯やその状況等からすれば、本件マンションの売却価額38,000,000円は、これらの事情を十分考慮した上で決定された価額であると認められる。そして、請求人らの売申込により売却したことが、例えばいわゆる売り急ぎに該当し、これを理由としてその売却価額が下落したといえる事情に該当するとも認められず、また、請求人らと買受人と間に親族等の特別な関係が認められないことなどの事情から判断すると、その売却価額に恣意的な要素が入る余地はなく、本件マンションの売却価額は売却時における本件マンションの適正な時価を反映しているものと認められる。

2 そうすると、本件マンションの売却価額を基に時点修正を行って本件マンションの相続開始日の時価を算定することには合理性があると認められる。

3 原処分庁は、①請求人らの売申込により売却したものであること、②本件売買契約は相続開始日からおおむね6か月を経過後に締結されたものであること及び③本件マンションの売却価額については他の売買実例との比較がなされていないことを理由として、本件マンションの売却価額が売却時における適正な時価ではないと主張するが、①請求人らの売申込により売却したことが売却価額を下落させた事情とは認められないこと、②売買契約の時点が相続開始日より6か月経過していたことについては時点修正により補正することにより相続開始日の時価を算定することが可能であること及び③本件マンションの売却価額は売却時における本件マンションの適正な時価を反映していると認められることから、あえて他の売買実例と比較する必然性は低く、他の売買実例と比較されていないことをもって、これが適正な時価でないということもできないと認められ、これらの主張については相当とはいえず、他に本件マンションの売買価額が適正な時価ではないとする理由も見当たらない。

想う相続税理士

常に相続後の売却金額で評価していい、というワケではありませんので、ご注意を。