相続税専門税理士の富山です。
今回は、個人事業者の方が亡くなった後、その方が雇用していた従業員に、相続人の方が退職金を支払った場合、その退職金が相続税の申告において、債務控除の対象になるか、ということについて、お話します。
亡くなった方に債務があると相続税は安くなる
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上記の記事でもお話したとおり、相続税の申告においては、その相続人の方が負担することとなる亡くなった方の債務を、土地や預貯金などの財産の金額から控除して(「債務控除」といいます)課税価格(相続税の対象となる金額)を計算します。
つまり、債務がある分だけ課税価格が減りますので、結果的に、相続税も安くなります。
債務控除の対象は「確実な債務」であることが前提
相続税法(一部抜粋)
第14条
前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
債務控除の対象となる債務は、「確実と認められる」ことが要件となります。
では、個人事業者の方が亡くなった後、その方が雇用していた従業員に、相続人の方が退職金を支払った場合、それは、「確実と認められる」もの(債務)と言えるのでしょうか?
国税庁HP・質疑応答事例(一部抜粋)
被相続人が雇用していた従業員を相続開始後に解雇し退職金を支払った場合の債務控除
【照会要旨】
個人事業者が店舗焼失と同時に亡くなりました。
相続人は、事業基盤がなくなったことから、その事業を承継せず、被相続人が雇用していた従業員を解雇し、退職金を支払いました。
この場合の退職金は、相続税の課税価格の計算上債務として控除できますか。
個人事業者の方が亡くなった時点、つまり、相続発生時点では、その従業員の方は退職しておらず、したがって、退職金をいくら支払おうか?というような計算もしていません。
そうすると、この退職金は債務控除の対象にならないのでしょうか?
相続開始時点で確実と認められる範囲は債務控除可能
【回答要旨】
被相続人の死亡によって事業を廃止して被相続人が雇用していた従業員を解雇する場合において、その者に退職金を支払っているときは、その支給された退職金は、被相続人の生前事業を営む期間中の労務の対価であり、被相続人の債務として確実なものであると認められますから、相続税の課税価格の計算に当っては、その金額を控除して差し支えありません。
その従業員の方が亡くなった個人事業者の元で働いていた、ということは、それにより、退職金を受け取る権利も発生している、逆に言うと、個人事業者側は、支払う義務が発生している、ということになり、債務の存在自体は確実である、という考え方になるものと思われます。
その上で、その債務の金額がはっきりしていなかったとしても、妥当な金額であれば、問題ない、ということになるものと思われます。
相続税法基本通達(一部抜粋)
14-1 確実な債務
債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。
想う相続税理士