相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方から相続開始前3年以内に多額の贈与を受けている場合であっても、遠慮せずに、相続でも財産をもらった方が税負担的にトクをするケースについて、お話します。
相続税の申告をする場合には生前贈与加算に注意
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
概要
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与(「相続等」といいます。)によって財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間(現在は「相続開始前3年以内」)に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときは、その人の相続税の課税価格にその財産の贈与時の価額を加算します。
相続で財産を取得した方が相続税の申告をする場合、亡くなった方から暦年課税による贈与により生前贈与を受け、その贈与の時期が加算対象期間に該当するときは、相続で取得した財産だけでなく、その生前贈与財産も相続税の計算に含めなければなりません。
これを、「生前贈与加算」といいます。
相続で財産を取得しなければ生前贈与加算の必要はない
出典:TAINS(相続事例大阪局R050000)(一部抜粋加工)
誤りやすい事例(相続税関係 令和5年版) 大阪国税局資産課税課
(3年以内に贈与を受けた者が相続しない場合)
【誤った取扱い)
38 次男は、長男との間で、父親の相続財産を取得しないとする分割協議を行った。しかし、次男は、父親の死亡の2年前に事業資金として2,000万円の贈与を受けていたことから3年以内の贈与加算を行い、相続税の申告をした。
なお、次男は父親からの贈与について相続時精算課税の選択をしていない。
【正しい取扱い】
38 相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合には、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算することとされている(相法19①)。
次男は、相続又は遺贈により財産を取得していないため、相法19条1の規定は適用されず、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算しないこととなるので、相続税の申告は不要となる(相基通19-3)。
生前贈与加算の対象者は、「相続で財産を取得した方」です。
「相続で財産を取得した方」には相続人以外の方も含まれ(遺言で財産をもらった親族でない方等も対象)、また、死亡保険金を受け取った方も対象となります。
生前贈与加算の適用がない方がトク?
上記の次男は、2,000万円の贈与を受けたということですから、その年に他に贈与により取得した財産がなく、その贈与が直系尊属からの「特例贈与」に該当する場合には、5,855,000円の贈与税を納付しているハズです。
税負担率は
約29.28%(=5,855,000円/2,000万円)
です。
相続税の申告は不要ですので、この600万円弱の贈与税を払って終わりです。
父親の相続財産が1億1,000万円あったとします。
次男がこのうちの4,500万円を、長男が残りの6,500万円を相続したとします。
次男は相続で財産を取得するので、2,000万円の贈与は生前贈与加算の対象となります。
1億1,000万円+(生前贈与加算)2,000万円=1億3,000万円に対して相続税が計算され、全体の相続税は1,360万円となります。
次男相続4,500万円+次男生前贈与加算2,000万円=6,500万円は、長男相続6,500万円と同じですので、相続税の申告書上(課税価格ベース)では、50%ずつ相続したことになり、それぞれの相続税(算出税額)は1,360万円×50%=680万円となります。
長男は相続税の申告の際、この680万円を納付することになりますが、次男は相続税の計算対象となった生前贈与財産2,000万円について、既に5,855,000円の贈与税を払っていますので、これを控除して(「贈与税額控除」といいます)、680万円△5,855,000円=944,500円の相続税を納付することになります。
「(相続税)944,500円+(贈与税)5,855,000円=680万円」で、「(相続)4,500万円+(贈与)2,000万円=6,500万円」の財産を取得することができた、ということになりますので、税負担率は
約10.46%(=680万円/6,500万円)
となります。
相続で財産を取得することにより、税負担を半分以下に下げることができる、ということになります。
想う相続税理士