相続税専門税理士の富山です。
今回は、アパート(収益物件)の贈与に関して押さえておきたいポイントについて、国税庁HP・タックスアンサー及び質疑応答事例を引用しながら、お話します。
相続税対策として収益物件を贈与する
先日、別の士業の方からお話がありました。
「満室のアパートを子供に贈与したい、とおっしゃっているお客様がいるんですが、相談に乗ってくれますか?」という内容でした。
結局、そのお話は無しになったのですが、そのお客様の場合、相続税対策というよりは、国民健康保険税が高いので、それを何とかしたい、ということが贈与の目的だったようです。
アパート(収益物件)を贈与する場合、そのような目的の場合もあるでしょうし、相続税対策として行う場合もあります。
入居者から振り込まれる家賃がどんどん口座に貯まっていくと、それが相続税の課税対象となります。
そこで、アパートを子供に贈与し、家賃がアパートの新オーナーである子供の口座に貯まっていくようにするのです。
そうすれば、親御さんの預金残高は家賃収入により増えません(相続税の課税対象は増えません)。
しかし、アパート(収益物件)を贈与する場合には、注意すべきポイントがあります。
入居者から預かっている敷金があるとどうなる?
アパートのオーナーが入居者から入居時に預かった敷金(預り敷金)がある場合、それは退去時に返還すべきものですので、オーナーから見た場合には「債務」に該当します。
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋)
賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係
敷金とは、不動産の賃借人が、賃料その他の債務を担保するために契約成立の際、あらかじめ賃貸人に交付する金銭(権利金と異なり、賃貸借契約が終了すれば賃借人に債務の未払いがない限り返還されます。)であり、その法的性格は、停止条件付返還債務である(判例・通説)とされています。
そして、その敷金は原則として、アパートの贈与により新オーナーに自然と引き継がれることになります。
また、賃貸中の建物の所有権の移転があった場合には、旧所有者に差し入れた敷金が現存する限り、たとえ新旧所有者間に敷金の引継ぎがなくても、賃貸中の建物の新所有者は当然に敷金を引き継ぐ(判例・通説)とされています。
負担付贈与に対する課税に注意
親はアパートを贈与し、それとともに、預り敷金の返済義務を子に引き継がせることになります。
これは「負担付贈与」に該当します。
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4426 負担付贈与に対する課税
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。
個人から負担付贈与を受けた場合は、贈与財産の価額から負担額を控除した価額に贈与税が課税されることになります。
この場合の課税価格は、贈与された財産が土地や借地権などである場合および家屋や構築物などである場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額によることになっています。
また、贈与された財産が上記の財産以外のものである場合は、その財産の相続税評価額から負担額を控除した価額となります。
なお、負担付贈与があった場合においてその負担額が第三者の利益に帰すときは、その第三者は負担額に相当する金額を贈与により取得したことになります。
贈与者は、負担額でその贈与財産を譲渡したことになりますので、譲渡益が生じる場合には、所得税の対象となります。
敷金返還義務に相当する現金の贈与を同時に行う
負担付贈与に該当してしまうと、相続税評価額ベースではなく、時価(通常の取引価額)ベースで贈与税を計算することになるため、贈与税が高くなってしまう可能性があります。
そこで、預り敷金の返還義務に相当する現金の贈与を同時に行うことにより、「実質的に預り敷金の返済義務を子に引き継がせない」ようにすることで、負担付贈与に該当することを回避する方法があります。
父親は、長男に対して賃貸アパート(建物)の贈与をしましたが、本件贈与に当たって、賃借人から預かった敷金に相当する現金200万円の贈与も同時に行っています。この場合、負担付贈与通達の適用を受けることとなりますか。
照会のように、旧所有者(父親)が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、新所有者(長男)に対し賃貸アパートを贈与した場合には、法形式上は、負担付贈与に該当しますが、当該敷金返還義務に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、一般的に当該敷金返還債務を承継させ(す)る意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的な負担はないと認定することができます。
したがって、照会の場合については、実質的に負担付贈与に当たらないと解するのが相当ですから、負担付贈与通達の適用はありません。
(注)なお、照会の場合については、実質的に負担付贈与に該当せず、譲渡の対価がありませんので父親に対して譲渡所得に係る課税は生じません。
想う相続税理士