【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

子供から借金をして建物を買えば相続税対策ができる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、混同により債務が消滅することに着目した相続税対策が否認された事例について、お話します。

出典:TAINS(J123-3-09)(一部抜粋加工)
令03-06-17公表裁決


相続税専門税理士に任せてスッキリ!
相続税専門税理士が直接対応
事前予約で土日祝日夜間対応可能
明確な料金体系+スピード対応
大手生命保険会社様で相続税・贈与税に関するセミナー講師の実績有(最近の実績:令和5年11月・令和5年12月・令和6年2月)

または はこちらから


子供が新築した建物を親が借入により購入する

ロ 本件被相続人の生前における請求人との契約等について
(イ) 請求人は、平成〇年〇月〇日、本件被相続人及びJが所有するa市b町○-○の土地(以下「本件土地」という。)上に、建物(家屋番号○○○○の居宅・物置。以下「本件建物」という。)を新築した。
(ロ) 請求人は、平成26年〇月〇日、本件被相続人との間で、請求人を売主、本件被相続人を買主として、本件建物を代金127,800,000円(以下「本件代金」という。)で譲渡する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日付で売買契約書を作成した。
(ハ) 請求人は、平成26年〇月〇日、本件被相続人との間で、請求人を貸主、本件被相続人を借主、借入期間を〇年として、127,800,000円を無利息で貸し付ける旨の金銭消費貸借契約書(以下「本件金銭消費貸借契約書」という。)を作成し、同日付で本件代金に係る準消費貸借契約(以下「本件準消費貸借契約」といい、本件売買契約と併せて「本件各契約」という。)を締結した。

  1. 子供が建物を新築し
  2. それを親に売却
  3. 売却金額は「建物の取得価額から減価償却累計額を控除した残高である未償却残高(を千円未満切捨てした金額)」を「適正な時価」として採用(127,800,000円)
  4. 売却代金の授受はせず、金銭消費貸借契約を締結(127,800,000円)

という流れです。

つまり、親には「A子供から購入した建物」「B子供から借りた借入金」がある、ということになります。

建物の相続税評価額は固定資産税評価額

相続税は、プラスの財産からマイナスの財産を控除(「債務控除」と言います)して計算します。

親に相続が発生した時、「A子供から購入した建物」はプラスの財産であり、「B子供から借りた借入金」はマイナスの財産です。

AとBが同額ならプラスマイナスゼロになりますが、建物の相続税評価額は購入金額をベースに計算しません。

「固定資産税評価額×1.0」で計算します。

つまり、固定資産税評価額です。

「A子供から購入した建物」の固定資産税評価額は、40,738,138円でした。

また、相続開始時点の借入金の残高は126,202,500円でした。

つまり、この取引により、40,738,138円△126,202,500円=△85,464,362円の正味債務が計上されます。

他にプラスの財産があったら、そこから8,500万円超も控除できるため、相続税が安くなります。

債権者である子供が債務を承継したら「混同」により債権債務は消えてなくなる

ニ 遺産分割について
(ロ) 請求人は、本件遺産分割において、本件土地、本件建物及び本件準消費貸借契約に基づく債務を承継した。本件被相続人には、本件相続開始日において本件準消費貸借契約に基づく残高126,202,500円の債務(以下「本件債務」といい、これに対応する請求人の債権を「本件債権」という。)があったが、本件遺産分割の結果、本件債権と本件債務はいずれも請求人に帰属することとなり、それぞれ本件相続開始日に遡って混同(民法第520条)により消滅した

親が「A子供から購入した建物」「B子供から借りた借入金」を、その売主かつ債権者である子供が相続により承継しました。

子供は、親の借入金を承継したことにより、その子供が親に貸していた貸付金は、自分に貸している貸付金になりました(「貸主=子供・借主=親」「貸主=子供・借主=子供」に)。

「債権者=債務者」となった場合、その債権債務は消滅します。

債権債務は消滅するモノの、相続税の計算上は、△85,464,362円の正味債務が計上でき(その分、相続税が安くなり)、また、売った建物を相続で自分のモノにできます。

このようなことが通用するのでしょうか?

正味債務は債務控除不可

本件債務の発生原因となった建物売買契約は、建物の売買金額と相続税評価額との間に生じる差額により相続税の軽減効果が期待できるとの提案があった上で締結されたことからすると、本件債務のうち、売買対象となった建物(本件建物)の経済的価値(評価通達に基づき算出された評価額)に相当する部分については、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示しているものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎないのであるから、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示すものとはいえない。したがって、本件債務のうち、本件建物の経済的価値に相当する部分については、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、「確実と認められるもの」には該当しない

承継した債務の金額のうち、相続した建物の相続税評価額(固定資産税評価額)を超える部分の金額は、債務控除の対象となる「『確実と認められる』債務」ではないとして、債務控除はできない(それを利用して相続税は安くできない)とされました。

想う相続税理士

こちらの記事もご覧ください(「債務者・借主=子供」の場合のお話です)。
相続人が自分に対する貸付金を相続したらどうなる?