相続税専門税理士の富山です。
今回は、債務の負担者について、お話します。
債務があると相続税が安くなる
相続税は、土地や預貯金などのプラスの財産だけで計算するものではありません。
プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた「正味」財産の金額をベースに計算します(差し引くことを「債務控除」といいます)。
ですから、借入金などの債務があれば、その分だけ相続税は安くなります。
他の相続人に比べて、プラスの財産を多く相続したとしても、マイナスの財産も多く引き継ぐことになれば、相続税はあまりかからない、ということになります。
相続税の申告書においては、第13表(債務及び葬式費用の明細書)に債務や葬式費用などの負担者を記載し、その債務等の負担者については、その負担した分だけ相続税が安くなるようになっています。
債務の引継ぎは勝手にできない!
上記のような相続税の計算の側面をご確認いただくと、債務についてもプラスの財産と同じように遺産分けをするようなイメージがあるかもしれません。
実際に相続税の計算をするためには、債務の負担者を決めるのですが、実は、債務は法定相続分に応じて相続されることが原則となっています。
民法
(分割債権及び分割債務)
第四百二十七条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
つまり、遺産分割の対象にはならない、ということです。
ただし、遺産分割協議によって、債務を特定の方が負担する、ということを決めることは可能です。
だからといって、遺産分割協議によって、その特定の方が債務を負担するということに決まったとしても、それによって、それ以外の相続人が絶対に債務を負担しなくてよくなるのか、というと、そんなことはありません。
その債務には当然「債権者」(例えば銀行)がいるワケです。
その債権者の意向も聞かずに、勝手に債務者を亡くなった方から特定の方に変更できるワケないですよね。
債権者から見れば、お金が返せる人(実際に債務を負担できる人)に債務を引き継いでもらわなければ困るのです。
債務の負担者を限定(特定)するためには、債権者の承認が必要ということになります。
債務の負担は代償分割である
例えば、長男と長女が相続人である場合、それぞれ法定相続分の1/2ずつの債務を承継する義務があるのですが、遺産分割協議により、長男が全債務を負担する、ということに決まったとします。
長男が多くの財産を相続する見返りとして、全債務を負担するという場合、上記のように法定相続分で債務を引き継ぐのが原則ですから、特定の方(長男)が債務を負担するということは、長女の分の債務を代わりに払ってあげる、ということになります。
つまり、これは「代償分割」です。
「代償分割」というと、財産を多く取得する相続人が、取得しない相続に対して、その償いとしてお金(代償分割金)を払う、というイメージがあるかもしれませんが、お金を払わなくても、債務を負担すれば、与える経済的な効果としては同じです。
代償分割金の支払の際に注意しなければならないのは、本来の財産を超えた代償分割金を支払うと、贈与になってしまう、ということです。
土地1,000万円しか相続していない長男が、長女に現金3,000万円を支払うような場合です。
この場合、1,000万円を超える2,000万円部分は、長男が元々持っていたお金を払った、ということになります(土地以外を相続していないのであれば、自分のお金を長女に出した、ということです)から、長男から長女への贈与ということになります(通常こういったことが起こるのは、長男が多額の生命保険金を取得していて、その保険金の中から長女に支払うのですが、そもそも生命保険金は受取人の固有の財産であるため遺産分割の対象外であり、代償分割金の原資にはできません)。
代償分割金の支払がなくても、取得した財産以上の債務を負担すると、理論上は上記のような贈与が発生してしまいますので、ご注意ください。
想う相続税理士