相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方名義の預金について、相続人の方が税理士に伝えず、それが税務調査で見つかっても、重加算税の対象にならなかった、という裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(J117-1-01)(一部抜粋加工)
令01-11-19公表裁決
関与税理士に預金の存在を伝えなかったことは即、隠ぺいになる?
事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の母が、原処分庁による調査の結果に基づいて、請求人の亡兄の相続に係る相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、申告漏れ相続財産のうち、母が関与税理士に伝えなかった預金については、母がこれを隠ぺいし、相続財産として申告しなかったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、母は当該預金を隠ぺいしたものではないなどとして、母の死亡に伴い納税義務を承継した請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。
亡くなった方の預金を「隠蔽(隠ぺい)=故意に隠す」すると、重加算税の対象となります。
国税通則法(一部抜粋加工)
第68条 重加算税
第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書又は第23条第3項に規定する更正請求書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
隠ぺいに該当するかどうかはどう判断する?
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。
しかし、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動・行為をしているか、がポイントとなります。
相続人はどのような行動をとったか?
本件相続人は、本件預金を原処分庁が容易に把握し得ないような他の金融機関や本件相続人名義以外の口座などに入金したのではなく、解約した本件預金の口座と同じ金融機関の本件相続人名義の口座に入金していたのである。
本件相続人は、平成27年5月15日に当該入金をした後、平成30年4月26日に至っても当該口座を解約していなかった。
これらのことからすると、本件相続人が原処分庁をして本件預金の発見を困難ならしめるような意図や行動をしているとは認められない。
本件相続人は、本件預金の預金通帳が使用済通帳として破棄できる状況にありながら、本件調査が行われるまで保管し、本件調査の際には、本件調査担当職員の求めに応じて、本件預金の使用済通帳を素直に提示していること、本件調査担当職員から本件預金を含めた本件被相続人名義の財産の申告漏れを指摘されると、特段の弁明をすることなく当該事実を認め、修正申告の勧奨に応じて修正申告をしていることなどの事情からしても、本件相続人が、本件預金を故意に本件申告の対象から除外する意図があったものとは認め難い。
本当に隠そうとしていたのか、見つからないような努力をしていたのか、がポイントとなります。
相続人の方が亡くなり、その子が請求人となっていますが、その請求人は、
本件相続人が、J税理士に本件預金の存在を伝えなかったとしても、本件被相続人が闘病生活の中、本件相続人が本件預金の管理の実権を握っていたと思われることから、本件預金を自己の財産と認識していたからにほかならず、隠匿とも故意の脱漏とも評価する要素がない。
と主張しています。
税務署には通用しないモノの、(税務署に見つからないような工作もしていないし)「そういう風に考えてしまうことも考えられる(その結果、申告もれが生じた)」という意味での妥当性があれば、隠ぺいによらない申告もれもあり得る、ということになるモノと思われます。
想う相続税理士
余計な税金を払い、税務調査で嫌な思いをすることになりますので、きちんと申告しましょう。