相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の申告書の様式の変更と、単独提出による相続時精算課税制度により納付した贈与税の還付申告について、お話します。
相続税の申告書にハンコは不要
令和3年度税制改正により、税務関係書類の押印義務が廃止されました。
相続税の申告においても、財産を取得した方の申告書への押印は不要となりました(ただし、遺産分割協議書については、従来どおり、相続人の方の実印の押印が必要です)。
これに合わせて、相続税の申告書の様式が変更されています。
共同で申告?単独で申告?
相続税は、各相続人ごとに、その各相続人が取得した財産を元に計算するのではなく、全財産の合計額に対して相続税が計算され、財産の取得割合に応じて各相続人の相続税が決まる、という計算スタイルになっています。
財産をどう分けるかについては、遺言がなければ相続人が全員集まって、遺産分けの話し合いを行い、遺産分割協議書を作成します。
ですから、そのままの「流れ」で、相続税の申告も相続人全員で行うパターンが主流です。
しかし、今回の申告書の様式の変更に伴う国税庁の記載例の公表を見ると、単独で申告することについてもしっかり書かれています。
単独で申告するということは、先ほどの「流れ」を考えるとあまり考えられないのですが、考えられるとすれば、相続人間でコミュニケーションが取れず、特定の相続人が財産の全容を教えてもらえないため、財産の内容が100%は分からないけれども相続税の申告をしなければならない、という場合に、分かる範囲で相続税の申告をする、というような場合が考えられますが、他のケースも考えられるな、とふと思いました。
相続財産が少ない場合には還付を受けられるケースがある!
相続時精算課税贈与により贈与税を納めている場合、相続税の申告によって、その贈与税は精算されます。
例えば、3,000万円の財産を相続時精算課税贈与により取得した場合、(3,000万円△2,500万円)×20%=100万円の贈与税が課税されているはずです。
これで課税が終わりかと言うと、そうではなく、相続税の申告によって精算されるので、「相続時精算課税制度」と言います。
他の相続人とのコミュニケーションが取れず、完全な相続税申告ができないとしても、全財産の合計額が、遺産に係る基礎控除額(相続税の非課税枠)以下であれば、相続税はかかりません。
かからないので、相続税の申告を「しなければならない」ということはないのですが、相続税がかからないということは、相続時精算課税贈与により納付した贈与税が還付になります。
その場合には、相続税の申告をしなければなりませんから、分かっている範囲の財産を申告し、還付を受けるということになります。
もちろん、改正前の申告書でもそれは可能でしたが(一緒に申告しない相続人等の欄に斜線を引いたりしていました)、斜線を引く代わりに「参考」というところに丸を付けたり、完全に単独で申告する場合の記載例も明示されたため、そのようなイレギュラーな申告書も、堂々と提出できるようになったと思います。
想う相続税理士