相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税申告における預貯金の取扱いについて、お話します。
相続税は亡くなった時点の財産に対して課税されるが・・・
相続税法基本通達(一部抜粋)
1の3・1の4共-8 財産取得の時期の原則
相続若しくは遺贈又は贈与による財産取得の時期は、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるものとする。
(1) 相続又は遺贈の場合 相続の開始の時(失踪の宣告を相続開始原因とする相続については、民法第31条《失踪の宣告の効力》に規定する期間満了の時又は危難の去りたる時)
相続税は、相続開始時点(死亡日時点)の財産に対して計算します。
亡くなった方の預貯金については、通常、金融機関に死亡日時点の残高証明書を発行してもらいます。
では、その残高証明書の金額を申告すれば、預貯金については後は何も考えなくていいのでしょうか?
相続前の引出しに注意!
相続が発生することが予見されると、多くの場合、預貯金の引出しが行われます。
葬式費用などの支払ができるようにするためです。
相続が発生したことにより、預貯金の口座が凍結され、お金が引き出せなくなることがあるのをご存知だからです。
お金を引き出した分、預貯金の残高は減っていますが、代わりに増えている財産があります。
「現金」です。
亡くなった後の葬式費用に充てるためのモノですから、相続発生時点では現金として相続人の方のお手元にあるハズです。
ですから、忘れずに申告する必要があります。
(葬式費用は相続税の申告上、控除できるとご存知なので)「お葬式の費用に使ったんだから申告する必要はないんじゃない?」とお思いになった方がいらっしゃるかもしれませんが、葬式費用は別途、プラスの財産から控除するため申告書に記載する欄があります。
ですから、プラスの財産は葬式費用に使う前の金額にしないと、葬式費用の分を二重に控除することになってしまいます。
想う相続税理士
この「『相続前』の引き出し」には、その死亡日当日の引出しも含まれます。
相続後の引き出しにも注意!
先ほど、「相続が発生したことにより、預貯金の口座が凍結され、お金が引き出せなくなる『ことがある』」とお話しましたが、凍結されない場合もあります。
凍結されなければお金が引き出せますので、相続後にお金を引き出す場合もあるでしょう。
想う相続税理士秘書
この場合には、引き出された現金の分も、残高証明書の記載金額に含まれているため、この現金の金額を別途申告する必要はありませんが、「あること」のために、その残高の変動を把握しておく必要があります。
そのあることとは「遺産分け」です。
税理士が作成した財産一覧や、相続税の申告書第11表(相続税がかかる財産の明細書)を元に遺産分けをすると、それらの書類に記載されている金額は残高証明書に記載されている相続開始時点の金額であり、実際に今ある金額とは異なる場合があります。
例えば、財産一覧では500万円のA銀行預金でも、相続後に200万円引き出されていれば、現時点では残高が300万円に減っているハズです。
この場合、A銀行預金を相続した相続人の方は、その預金を相続して解約しても300万円しかお金が入ってこないのに、500万円に対する相続税を納めることになります。
厳密に遺産分けをする場合には、このズレが発生する点にも留意する必要があります。
想う相続税理士
また、残高証明書と預貯金通帳の動きは突合するようにしましょう。
そうすれば、死亡日当日の出金の計上もれ等を回避することができます。