相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続放棄をすることにより、相続放棄をしていない方の相続税が増税になるケースについて、お話します。
相手のために良かれと思ってやる相続放棄もある
父が亡くなり、相続人が長男と次男の2人だとします。
次男が遠方に済んでいて、既にマイホームも所有しているとします。
先祖代々受け継がれてきた家屋敷や山林を、長男が相続してくれる、というので、次男は「自分は財産は要らない、家を守ってくれる長男に全財産を相続してもらおう」と考え、相続放棄の手続きをするとします。
相続人が長男と次男の2人の場合、次男が相続放棄をすれば、遺産分割協議をしなくても、長男が全財産を相続することができます。
長男が、次男から「相続放棄したい」と言われたら、自分が全財産を相続できますし、特に反対することもないかもしれません。
相続放棄をしても受け取れる相続税の課税対象財産がある
相続税が課税される財産には、遺産分けの対象外となるものがあります。
死亡保険金です。
父がご自分に掛けていた生命保険があり、次男がその死亡保険金の受取人に指定されていて、その契約どおりに死亡保険金を受け取った場合、その死亡保険金は相続税の課税対象となります。
受取人に指定されているので、相続放棄をしても受け取れるのです。
元々、受取人が決まっているので、遺産分割協議の対象外なのです。
このような死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」で計算される非課税枠があります。
相続放棄をすることにより相続税の課税対象が増える
しかし、相続放棄をした方が受け取った死亡保険金には、この非課税枠は適用できません。
今回のケースで、次男が受け取った死亡保険金が1,000万円で、長男が受け取る死亡保険金はないとします。
先ほどの非課税枠の「500万円×法定相続人の数」の「法定相続人の数」にカウントする対象者は、死亡保険金を受け取ったかどうかは関係ありません。
長男が死亡保険金を受け取っていなくても、長男の分も人数にカウントすることができます。
結果として、「500万円×2人(長男・次男)=1,000万円」の非課税枠があることになるため、次男が相続放棄をしなければ、その非課税枠に収まるため、その死亡保険金には相続税がかかりませんでした(次男は相続税を納める必要がありませんでした)。
しかし、相続放棄をすることにより、非課税枠が適用できなくなることにより、1,000万円が丸々、相続税の課税対象となります。
さらに、長男が相続する家屋敷や山林、預貯金などの財産が4,000万円だったとします。
この金額だけを見れば、相続税はかかりません。
なぜなら、相続税の計算には、上記の死亡保険金の非課税枠以外に、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される「遺産に係る基礎控除額」と言われる非課税枠があるからです。
この非課税枠を計算してみると、「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」です。
つまり、全財産が4,200万円以下なら相続税がかからないのです。
4,000万円だったらかかりません。
しかし、次男が相続放棄をすることにより、4,000万円の通常の財産(本来の相続財産)に死亡保険金1,000万円が加算されます。
相続放棄をしていなければ、死亡保険金の非課税枠を適用し、0円となるため、加算されたなかったのですが、相続放棄することにより、相続税の課税対象は「4,000万円+1,000万円=5,000万円」となり、4,200万円を超えてしまいます。
結果として、長男が相続する財産にも相続税が課税されることになり、相続放棄をしなければ、相続税の申告が不要だったのに、相続税の申告もしなければならなくなる、という事態に発展してしまうのです。
想う相続税理士