相続税専門税理士の富山です。
今回は、不動産賃貸物件に係る預り敷金について、お話します。
不動産賃貸物件のオーナーは賃借人からお金を預かる
土地や建物などの不動産を賃貸すれば、地代や家賃が懐に入ってきます。
また、それ以外にも賃貸開始時に入ってくるお金があります。
「預り敷金」です。
民法(一部抜粋加工)
第四款 敷金
第六百二十二条の二 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
預り敷金は「預かっている」ものですから、基本的には賃借人に返還しなければなりません。
返さなくちゃいけない=借入金と一緒=債務
入ってきたお金だけど、自分のものではない、いざという時は「返さなければならない」という訳ですから、返済義務のある借入金と一緒です。
つまり、相続税の申告においては「債務控除」の対象になります。
想う相続税理士秘書



不動産賃貸物件だけをもらって預り敷金の引継ぎを拒否することはできる?
「地代や家賃が入ってくるから不動産賃貸物件をもらうのはいいけど、預り敷金は借入金と一緒だから引き継ぎたくない」ということはできるのでしょうか?
出典:TAINS(相続事例大阪局WAN2705)(一部抜粋加工)
生前贈与を受けた貸しビルの敷金についての債務控除
【照会要旨】
次のような事例の場合、相続税の計算上、賃借人から受け取っている敷金について債務控除の対象となるか。
(事例の概要)
平成元年 被相続人が建物建築
賃貸に供し、賃借人から敷金として1,500万円を預かった。
平成4年 建物を子(相続人)に贈与
平成12年相続開始
【回答要旨】
被相続人が生前に子に賃貸家屋を贈与した時点で、被相続人と借家人との間で締結した借家契約は新所有者(子)に引き継がれているから、敷金に関する権利義務も当然継承されることになる。したがって、この場合には、当然賃貸家屋に係る敷金返還債務は贈与を受けた子の債務であり、被相続人の債務にはならないため相続税の計算上債務控除の対象とすることはできない。
ただし、被相続人と子及び賃借人との間で敷金に関する権利義務を新所有者である子が承継しないとする合意がある場合には、その敷金返還義務は依然として被相続人が負っていることとなるので、債務控除の対象となる。
賃貸人(オーナー)の地位が贈与により親から子に承継された場合、基本的には、預り敷金の返済義務も同時に承継されます。
上記の事例においては、(ただし書き以降に該当しなければ)「『預り敷金は生前贈与で承継されずに亡くなった親が依然としてその返済義務を負っていたのだから債務控除の対象になる』と考えることはできない」ということになります。
想う相続税理士
「『賃貸人の地位が贈与により親から子に承継された際に、子はその現金を受け取っていないのだから、預り敷金という債務も引き継いでいないのだ』ということにはならない」ということになります。