【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

贈与税を負担すると約束した贈与者が負担する前に亡くなった場合の取扱い

相続税専門税理士の富山です。

今回は、贈与税を負担すると約束した贈与者が、贈与税を負担する前に亡くなった場合において、その贈与税相当額が、その相続に係る相続税申告において債務控除の対象になるかが争われた裁判の判決について、お話します。

出典:TAINS(Z188-6842)(一部抜粋加工)
判決(平成4年2月6日言渡)


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相続税の計算では遺産総額から債務を差し引くことができる

国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋)
No.4126 相続財産から控除できる債務
相続税を計算するときは、被相続人が残した借入金などの債務を遺産総額から差し引くことができます。

相続で財産を取得したとしても、それと一緒に亡くなった方の債務も負担する場合があります。

5,000万円の財産を取得しても、それと一緒に1,000万円の借入金も引き継ぐことになれば、実質的には4,000万円=5,000万円△1,000万円の財産を取得した、ということになります。

相続税の計算においても、もらった財産にだけ着目して課税するのではなく、上記の借入金のような債務を財産からマイナス(「債務控除」といいます)することで、実態に合わせた課税(結果として公平な課税)が行われるようになっています。

債務控除が認められる債務とは?

相続税法(一部抜粋)
第13条 債務控除
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの
第14条
前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。

相続税法基本通達(一部抜粋)
14-1 確実な債務
債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。

債務控除の対象となる債務は、「確実と認められるもの」に限定されます。

それでは、会社の経営の安定を図るために、会社の出資持分を贈与しようとした方が、その贈与により受贈者(もらう方)に発生する贈与税が受贈者の負担にならないよう、その贈与税も負担する、と約束していたものの、負担する前に亡くなってしまった場合、その負担すると約束していた贈与税相当額は、債務控除の対象になるのでしょうか?

書面によらない贈与というだけで、債務控除の対象にならないと解すべきではない

贈与者(被相続人)が生前に受贈者に対し、贈与税を負担する旨の意思を表明したことは、本来の納税者である受贈者が贈与税を納付するが、贈与者は、贈与税に相当する金額を受贈者に贈与することによつて、贈与税を実質負担するという趣旨であると考えられ、贈与者は連帯納付義務者として贈与税を納付しようとしたものではないこと及びその贈与税相当の金員の贈与が履行済みであることから、本件相続時点において、右贈与の債務の存在及び履行は確実であつたと認められるとして、右贈与税は贈与者の死亡を起因とする相続税の課税価格の計算上債務控除されるべきである

書面によらない贈与のようにいつでも本人又は相続人が取り消し得るものが、相続税法14条1項にいう「確実と認められるもの」に含まれるかは一個の問題である。確かに、書面によらない贈与は、贈与者又はその相続人は履行するまでは取り消すことができる。しかしながら、だからといつて、直ちに、それらが定型的に「確実と認められるもの」に当たらないということはできない。なぜなら、贈与契約に基づく債務は、保証債務のような補充的なものではないから、いやしくもその債務の存在すること及びその債務の履行されることが確実であると証拠上認められるならば、これを「確実と認められるもの」ではないとはいえないからである。すなわち、取消しが理論的には可能であつても、諸般の状況からみて取消権の行使がされず、その債務が履行されることが確実と認定できる場合には、これを債務控除の対象から控除すべき理由はない。

民法第五百五十条に、「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる」とあるのですが、だからといって、「贈与が成立していたとしても、書面がなければ、それは解除が可能なのだから、その贈与は確実ではない、だから、贈与税を負担する約束も確実ではない、つまり、債務は確実ではない、したがって、債務控除はできない」とはならない、ということです。

想う相続税理士

「確実と認められる」の言葉に必要以上にビビらないようにしましょう。