相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税申告における貸付金の評価(回収可能性)が争われた判決について、お話します。
出典:TAINS(Z888-2607)(一部抜粋加工)
令和5年8月31日判決
回収できない貸付金は財産価値が無いから評価しない
財産評価基本通達(一部抜粋加工)
205 貸付金債権等の元本価額の範囲
前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。
上記にあるとおり、「その債権金額の全部又は一部が、課税時期において」「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」場合には、その部分については評価の対象外となります。
では、亡くなった方が同族会社にお金を貸していて、つまり、貸付金という債権を有していて、その同族会社がほぼ継続して債務超過の状況にあり、かつ、その会社が相続税の申告期限までに清算して消滅していた場合、その同族会社に対する貸付金は評価しなくてもいい、ということになるのでしょうか?
「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」に該当するか?
3 本件法人は、平成20年10月期ないし平成29年10月期(本件各事業年度)において、ほぼ継続して債務超過の状況にあったものであるが、その債務のほとんどは本件法人の代表者あるいはその親族からの借入金であり、これは無利息かつ返済期限のないものであった上、本件法人の相続開始日時点の借入金は、本件債権である6036万4325円と原告に対する29万3300円であって、その債権者は全て原告であったのであるから、本件法人の代表取締役である原告が自らその返済時期や方法を調整することは可能であったといえ、直ちに返済を要するものではないことは明らかである。
4 また、本件法人には、◯◯201号室及び◯◯601号室の不動産賃貸による賃料収入が継続的にあり、その損益の状況は、本件各事業年度において、低額とはいい難い額の役員報酬を継続的に支払った上で、現金出金を伴わない減価償却費を計上していた平成20年10月期ないし平成23年10月期は、減価償却費を除けばいずれも税引前当期純利益は黒字、平成24年10月期以降は、修繕費を30万円以上計上した平成24年10月期、平成25年10月期及び平成27年10月期以外は税引前当期純利益は黒字であったものであり、本件法人は相続開始日時点でも営業を継続していたものである。
貸付先の会社が債務超過であったとしても、それをもって「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」に該当するワケではありません。
相続税の申告期限に存在していない会社に対する債権は評価不要?
5 相続開始日後も本件法人を存続させ、将来にわたって生じ得る経常利益を本件債権の返済に充てることは可能であったものと解すべきであって、本件法人の解散及び清算は、損害のこれ以上の拡大を防ぐためにやむなく行われたというよりは、飽くまでも本件法人における経営上の判断の結果によるものと認められる。
法令や通達はもとより、国税当局の公式的な見解を定めた情報等を参照しても、相続税の申告期限までに解散・清算した法人に対する貸付金債権を回収不能と認めるとの規定や取扱いは見当たらず、原告が主張する実務は存在しない。
貸付先の会社が「相続開始前から所有不動産の売却の準備を進め」「本件相続開始日時点で会社の解散が決まっていたのは明らか」「相続税の申告期限までに解散及び清算」していたとしても、それをもって「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」に該当するワケではありません。
想う相続税理士