相続税専門税理士の富山です。
今回は、財産を遺す方(「推定被相続人」とします)と、その財産を受け継ぐ方(「推定相続人」とします)の意識の違いについて、お話します。
亡くなってからでは遅い
相続の手続きや相続税の申告は特殊です。
人が亡くなったら、その当事者はこの世にいないため、その方の相続人や受遺者(遺言で財産をもらう方)の方々が、相続登記等の財産の名義書換えの手続きや、相続税申告をすることになります。
この場合、亡くなった方の財産を完全に網羅することは非常に難しいです。
なぜなら、もうその当事者に尋ねることができないからです。
マイナンバーとすべての財産が紐付けされていて、相続の開始と同時に、国から相続財産の一覧表が送られてくる、なんてことはありません。
相続の当事者は推定被相続人ではなく、残された推定相続人なのです。
生前に準備しておくことは簡単?
それなら、推定相続人の方は、推定被相続人の方に、生前に財産の内容を確認しておけばいいのでしょうか?
推定被相続人の方がお若いと、財産の内容について尋ねても、「まだそんな齢(トシ)じゃない!」と言われてしまうかもしれません。
推定被相続人の方がご高齢になってくると、「そんな縁起でもないことを言うな!」と言われてしまうかもしれません。
本当に亡くなる間際になったら、推定相続人の方もそんな話は出せなくなってしまいます。
願望が根拠になっている場合がある
お客様のご相談に乗っていると、推定被相続人の方が「うちの相続はモメるハズがない」と本気でお考えになっていて、でも、税理士として、また、外部の第三者として客観的に見て、「どう見てもモメるだろう」というケースがあったりします。
この「うちの相続はモメるハズがない」というのが、「モメて欲しくない」という願望がいつしか形を変えて「モメるハズがない」となっている場合があります。
信念が根拠になっている場合がある
上記とは似て非なるケースで、推定被相続人の方が「モメるようだったらうちも終わりだからその時はそれでいい」とお考えになる場合もあります。
家族経営で皆さんで一致団結して素晴らしいご商売をされていて、でも、それは特定の推定相続人だけでは引き継げない、皆さんで力を合わせて承継していく必要がある、という場合、モメたら家族の生活基盤が崩れてしまいます。
そんなことも分からないようだったら、終わりでいい、という強い気持ちによるお考えです。
最善を尽くすけれども高望みしない
推定相続人の方は、遺産分けや相続税の申告など、大変なことが待っている、だから、ちゃんと準備しておきたい、というお気持ちから、財産の内容をちゃんと教えておいて欲しい、とか、相続税対策をしておいて欲しい、とお考えになったりします。
それに対して、推定被相続人の方は、人生においていろいろと経験を重ねてこられてきているため、ある程度のことは大丈夫だ、とお考えになれるのだと思います。
自分の相続も何とかなるだろう、とお考えになるのだと思います。
また実際に何とかしてこられたのだと思います。
推定相続人の方々を信頼されているのだと思います。
相続税対策とか、面倒なことはしたくない、というお気持ちもあるでしょう。
しかし、推定被相続人の方が見ている世界は、推定被相続人の方がいなくなると、ガラッと変わる場合があります。
急に推定相続人の方同士の関係性が悪化することがあります。
それだけ推定被相続人の方の存在は大きいのです。
しかし、それは推定被相続人の方には分かりません。
想う相続税理士
生前の相続税対策は、なかなか推定相続人の方が思ったようには進められないでしょう。
最善は尽くすけれども高望みをしない、というスタンスが重要です。