相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続人の方が、亡くなった方から預かっていたお金(亡くなった方から見たら「預け金」)や、亡くなった方からの生前贈与財産があることを税理士に伝えず、相続税の申告をしたことが、隠ぺい仮装行為に該当する、とされた判決事例について、お話します。
隠ぺいになるかどうかはどこで決まる?
亡くなった方の預金を元々自分のモノだと考えて税理士に伝えなかったら重加算税?上記の記事では、相続人の方が、その存在を税理士に伝えなかった亡くなった方名義の預金があり、それが税務調査で見つかっても、隠ぺいではないとされ、重加算税の対象にならなかった、という裁決事例について、お話しました。
同じように、税理士に預け金や生前贈与財産の存在を伝えず、それが税務調査で見つかった場合でも、隠ぺい仮装行為があったとして、重加算税が課された判決事例があります。
出典:TAINS(Z269-13334)(一部抜粋加工)
令和元年10月30日判決
隠ぺい仮装行為があったかどうかのポイントは、次の2つとされています。
- 当初から過少に申告することを意図しているか
- その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたか
上記の判決事例では、上記の2つのポイントを満たしている、ということになります。
隠ぺい仮装行為があったかどうかの実際の判断
上記の2つのポイントについて、見ていきます。
①当初から過少に申告することを意図しているか
D税理士らに本件預け金及び本件贈与金の存在に触れずに相続税の申告について相談・依頼している
②その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたか
本件相続に関する税務代理を委任したD税理士から、本件相続開始前3年以内に贈与を受けたものは相続財産に加算しなければならない旨の説明を受け、乙の相続財産や乙から3年以内に贈与を受けた財産の明細等をまとめた資料を提出するよう求められたにもかかわらず、D税理士に対し、乙から3年以内に受けた贈与はない旨を回答して、本件預け金及び本件贈与金の記載のない乙の預貯金等の財産の一覧表を提出し、本件普通預金口座及び本件定期預金口座の残高証明書も提出しなかった
上記より、隠ぺい仮装行為があった、とされました。
隠ぺい仮装行為ではないと主張したが退けられた点
相続人の方は、次の4つの点を主張して、隠ぺい仮装行為には該当しないと反論しましたが、退けられました。
①本件預け金及び本件贈与金を課税庁に発見されにくいような金融機関で管理していたものではない
重加算税を課すために架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまでが必要であるとは解されないから、原告が課税庁から発見されにくい金融機関の口座を利用した隠匿行為をしていないからといって、上記「特段の行動」の存在が否定されるものではない
②本件預け金は乙の原告に対する金銭債権という無形のものであり、遺産として認識することが必ずしも容易なものではない
本件相続の開始前から乙の財産として本件預け金を管理していたものといえ、本件預け金の存在をD税理士に秘匿したのは、これを乙の遺産として認識していなかったからではない
③乙からFの存亡の危機となったときに社員の退職金等に充ててほしいと言われて口止めをされて本件贈与金の贈与を受けたものであり、相続税を免れようとする意図の程度は薄い
乙から本件贈与金の贈与を受けた際に口止めされたのかは証拠上明らかでないが、仮にそうであるとしても、このことをもって本件贈与金の秘匿が正当化されるものではなく、上記「特段の行動」の存在が否定されるものではない
④本件預け金と本件贈与金の合計が本件修正申告に係る課税価格の17.3%にすぎない
本件預け金及び本件贈与金の遺産全体に占める割合如何は、上記「特段の行動」の有無の判断に直接影響するものではないし、原告が秘匿した本件預け金及び本件贈与金の合計は約1億4800万円と多額であって、重加算税を賦課するのが不合理なほどに軽微なものということもできない
例え、悪質な行為ではないとしても、それにより隠ぺい仮装行為に該当しない、ということには結びつかない、とされました。
想う相続税理士