【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

内容証明郵便が戻ってきたら遺留分を請求する意思表示をしたことにならない?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、遺留分を請求するための内容証明郵便を発送したけれども、受け取ってもらえなかった、という場合の取扱いに係る最高裁の判例について、お話します。

裁判所HP(一部抜粋加工)
最高裁判所第一小法廷
平成10年6月11日
事件番号:平成9(オ)685


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「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額の請求」へ

遺留分とは、一定の相続人(「遺留分権利者」と言います)の方に保障されている最低限の財産の取り分のことです。

特定の方に遺言や生前贈与により財産が多く移転することにより、遺留分権利者が、その最低限の財産の取り分を受け取れなかった場合、その多く財産の移転を受けた方に対して、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求することできます。

これを「遺留分侵害額の請求」といいます。

想う相続税理士

民法の改正により、現在では上記のように「金銭の支払を請求」することができるようになったのですが、改正前は「遺留分減殺請求」と言って、「遺言や生前贈与により移転した『物件の返還』を請求」するという内容のモノでした。

物件を返還しようにも、ちょうどいい財産がなければ、共有(一緒に所有)することでその一部を返還する、なんてことになり、共有により支障が出ることも多く、また、共有状態になると、「この財産を誰々に渡したい」という遺言者の意思が結果的に反映されない(尊重されない)という点が問題視されていました。

現在では、お金で解決(「金銭の支払を請求」)できるようになったので、共有状態も回避できますし、ちゃんと渡したい方に渡したい財産を渡せる、ということになりました。

上記の最高裁の判例は、民法改正前の「遺留分減殺請求」時代のお話です。

不在配達通知書を無視すれば遺留分減殺請求を受けたことにならない?

「遺留分侵害額の請求」「遺留分減殺請求」を受ければ、お金を払ったり、財産を返還したりしなければならない、ということになります。

では、書面でそのような書類が郵送されてきた場合に、それを受け取らなければ、「遺留分侵害額の請求」「遺留分減殺請求」を受けたことにはならないのでしょうか?

前記一の事実関係によれば被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである

また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる

そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である

遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が、受け取られることなく、郵便局の留置期間の経過により差出人に還付された場合には、それにより遺留分減殺の意思表示が到達したと認めるのが相当、とされました。

また、この判決では、遺留分減殺請求権を有する相続人の方が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをした場合には、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである、としました。

想う相続税理士秘書

想う相続税理士

上記の判例は、民法改正前の「遺留分減殺請求」時代のお話です。

現在の「遺留分侵害額の請求」でも、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示を相手方にする必要がありますが、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示とはなりませんので、調停の申立てとは別に上記の判例のように内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります。

また、この遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示をしない場合には、遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年を経過したときに時効によって消滅しますので、ご注意を(相続開始の時から10年を経過したときも同様)。