相続税専門税理士の富山です。
今回は、配偶者に対する生前贈与は、一般的に相続税対策にならない、ということについて、お話します。
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同じ財産に贈与税がかかったり相続税がかかったりする!
贈与税は個人が生きている人から財産をもらった場合に課税される税金であり、相続税は亡くなった人から財産をもらった場合に課税される税金です。
同じ人から、生きている間にもらえば贈与税がかかり、亡くなってからもらえば相続税がかかる、ということになります。
贈与税と相続税は別の税金です。
そうすると、「贈与税がかかった財産には相続税はかからない」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2パターンがあります。
もともと大昔からあるのが「暦年課税」です。
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配偶者に対する贈与は対象外です。
この「暦年課税」は、もし日本の税制が「贈与税がかかった財産には相続税はかからない」という仕組みのままだったら、簡単にいつでも相続税を節税することができてしまいます。
亡くなったら30%の実効税率で相続税がかかる人が、10%の実効税率で贈与税がかかる贈与をしておけば、差額の20%が節税できてしまうのです。
ザックリ言うと、亡くなりそうだなと思ったら、財産を贈与してしまえばいい(上記の例だと20%節税できてしまう)のです。
そこで、亡くなる直前に駆け込み的に節税贈与をすることができないようにするため、相続で財産を取得した人が、亡くなった方から相続開始前3年以内(令和5年度税制改正により順次延長され「7年以内」に延長されます)に取得した財産については、相続税が課税されるようになっています(「生前贈与加算」と言います)。
ただし、贈与税を課税した財産に相続税も課税すると、二重課税(同じ財産に2つの税金を課税すること)となってしまうため、相続税を計算する上で、最終的には払った贈与税を控除できる仕組みになっています。
長男(配偶者以外の方)に生前贈与をしたらどうなる?
例えば、長男が父からA土地を贈与により取得し、贈与税を100万円払っていたとします。
3年以内に父が亡くなり、長男がその相続でB土地・C預金を取得したとします。
生前贈与加算により、B土地・C預金・A土地に対して相続税が課税され、長男の相続税が400万円と計算されたとします。
この400万円の相続税の中には当然A土地の分も入っています。
このままだとA土地に対して贈与税と相続税の二重課税となってしまうため、それを回避しなければなりません。
そこで、既に払っている贈与税100万円分を、計算された相続税400万円から控除します(「贈与税額控除」と言います)。
つまり、相続税は300万円だけ払えばいい、ということになります。
配偶者に生前贈与をしたらどうなる?
例えば、妻が夫からA土地を贈与により取得し、贈与税を100万円払っていたとします。
3年以内に夫が亡くなり、妻がその相続でB土地・C預金を取得したとします。
生前贈与加算により、B土地・C預金・A土地に対して相続税が課税され、妻の相続税が400万円と計算されたとします。
ここで、長男(配偶者以外の方)との「相続税の計算における決定的な違い」に気を付ける必要があります。
配偶者には相続税の計算において「配偶者の税額軽減」という特例を適用することができ、最低でも1億6,000万円の財産については相続税が課税されないのです(「1億6,000万円まで無税」)。
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この特例をフルに適用できたとすると、結果的に、400万円の相続税は0円になります。
さて、そうすると、既に払っている贈与税100万円はどのような取扱いになるのでしょうか?
贈与税と相続税の二重課税回避として、還付してもらえるのでしょうか?
そうはなりません。
相続税が課税されていないからです(相続税は0円です)。
二重課税が発生していません。
つまり、「贈与税100万円は払ってそのまま」です。
相続でもらえば税金がかからなかった!
上記の例の場合、妻がA土地を贈与ではなく、相続で取得していれば、贈与税は当然0円で、相続税も当然0円、つまり、無税で財産の移転を受けることができた、ということになります。
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生前贈与加算対象期間外に配偶者に贈与して、そこで贈与税を払った場合には、「贈与税100万円は払ってそのまま」になります。
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