相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続人の方が引き継いだ後に債務免除を受けた債務が、相続税の申告において債務控除の対象になるかが争われた裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-872)(一部抜粋加工)
令04-04-13裁決
相続税の申告における債務控除とは?
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4126 相続財産から控除できる債務
概要
相続税を計算するときは、被相続人が残した借入金などの債務を遺産総額から差し引くことができます。
遺産総額から差し引くことができる債務
(1) 債務
差し引くことができる債務は、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務(借入金や未払金など)で確実と認められるものです。
亡くなった方が土地や預貯金などのプラスの財産を有していただけでなく、亡くなった方に借金などの債務があった場合には、財産に対してダイレクトに相続税を課税するのではなく、一定の債務(や葬式費用)を控除した残りの部分に対して相続税を課税します。
この相続税の計算上「プラスの財産から債務や葬式費用を控除」することを、「債務控除」と言います。
引き継いだ債務について債務控除の適用を受けるためには、その債務が「確実と認められる」必要があります。
債務を引き継いだ後に相続人が債務免除を受けたら?
相続人の方が相続により債務を引き継ぐと、新たな債務者となります。
その債務を引き継いだ相続人の方が、「債務は返済しなくていいよ(債権を放棄するよ)」と債権者に言われたらどうなるでしょうか?
その債務を返済しなくていいという「トク」をしたことになりますから、そのトク(利益)に対して課税が生じます。
今回の事例では「一時所得」として課税されました(所得税課税)。
債務控除が認められる債務の「確実性」とは?
「債務免除により課税を受けた」のであれば、その債務は「確実と認められる」モノであると言えるので、「相続税の申告においては債務控除の対象になる」と考えていいのでしょうか?
4 被相続人は、和解条項に従って本件原債務を履行し、相続の開始の時において、支払条件により本件債務が免除されるために履行が必要となる残高は合計1,000,000円であったこと、それまでの履行状況や相続の開始の時における被相続人の純資産の価額並びに現金及び預貯金の価額から、当該1,000,000円を履行することができると認められること、現に、相続の開始の時以降、請求人Aらが支払条件に従った履行をし、銀行により本件債務が免除されたこと等に照らして、相続の開始の時の現況により控除すべき債務の金額の客観的経済価値を評価すれば、1,000,000円と認められるから、本件債務は、債権者である銀行の請求等により、債務者である被相続人につき債務の履行が義務付けられている債務であると認めることはできない。
5 したがって、本件債務は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当しない。
6 請求人らは、本件債務の免除益は一時所得に該当するとして所得税等の課税がされたことを前提とすると、本件債務は相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当すると解すべきである旨主張する。しかしながら、本件債務についての一時所得としての課税は、本件債務が存在することを前提に、銀行による本件債務の免除という行為によって発生した利益を所得として課税するものである。一方、相続税法第14条第1項が、相続税の課税価格の計算上控除する債務について、「確実と認められるもの」に限るとしているのは、相続人の負担となる債務(消極財産)を積極財産の価額から控除した純財産(純資産)により相続税の課税価格を算定しようという趣旨によるものである。そうすると、現に当該債務の存在が確実であっても、その性質上、相続人が履行するとは限らず、必ずしも相続人の負担とならないものについては、原則として、相続税の課税価格の計算上控除する債務の対象から除くことになるのである。これを本件債務が免除された事実についてみると、当該事実は、本件債務が存在していたことを前提として、一時所得としての課税の基礎となるが、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するかの判定に直ちに影響するものではないと解される。
「債務の存在が確実」であるかどうかではなく、「必ずしも相続人の負担とならないものについては、原則として、相続税の課税価格の計算上控除する債務の対象から除く」としています。
想う相続税理士