【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

土地の賃貸借契約が無効だったら土地の無償返還に関する届出も無効?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、土地の無償返還に関する届出の有効性が絡んだ判決事例について、お話します。


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土地の無償返還に関する届出とは?

国税庁HP(一部抜粋)
C1-63 土地の無償返還に関する届出
概要
法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、これを届け出る手続です。
この届出を行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととなります。
なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます。

「権利金(借地権)の認定課税」というモノを回避するために、「土地の無償返還に関する届出書」を提出する場合があります。

「権利金(借地権)の認定課税」については、こちらの記事をご覧ください。

想う相続税理士秘書

借地権の認定課税が行われていなければ借地権は控除できない?

「土地の無償返還に関する届出書」が提出されていて地主に相続が発生したら?

国税庁HP(一部抜粋)
相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
(「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価)
8 借地権が設定されている土地について、無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する。
なお、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には、43年直資3-22通達の適用があることに留意する。この場合において、同通達中「相当の地代を収受している」とあるのは「「土地の無償返還に関する届出書」の提出されている」と読み替えるものとする。
(注) 使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額によって評価するのであるから留意する。

国税庁HP(一部抜粋)
直資3-22
昭和43年10月28日
相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭和42年7月10日付東局直資第72号による上申に対する指示)
標題のことについて、課税時期における被相続人所有の貸宅地は、自用地としての価額から、その価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を控除した金額により、評価することとされたい。
なお、上記の借地権の価額は、昭和39年4月25日付直資56相続税財産評価に関する基本通達32の(1)の定めにかかわらず、被相続人所有のI株式会社の株式評価上、同社の純資産価額に算入することとされたい。
(理由)
地代率との相関関係から借地権の有無につき規定している法人税法施行令第137条の趣旨からすれば、本件の場合土地の評価に当たり借地権を無視する考え方もあるが、借地借家法の制約賃貸借契約にもとづく利用の制約等を勘案すれば、現在借地慣行のない地区についても20%の借地権を認容していることとの権衡上、本件における土地の評価についても借地権割合を20%とすることが適当である。
なお、本件における借地権の価額を被相続人が所有するI株式会社の株式評価上、同社の純資産価額に算入するのは、被相続人が同社の同族関係者である本件の場合においては、土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現することが、課税の公平上適当と考えられるからである。

土地の賃貸借につき「土地の無償返還に関する届出書」が税務署に提出されていて、その土地の地主の方がお亡くなりになった場合、その土地の相続税評価額は、原則として、通常の評価額(自用地としての評価額)の80%評価となります。

でも、そもそもその土地の賃貸借契約自体が無効だったら、「土地の無償返還に関する届出書」を提出していても、80%評価ではなく、借地権割合を控除した評価(借地権割合が70%だったら100%△70%=30%評価)となるのでしょうか?

「80%評価」「30%評価」かで争われた事例があります。

無償返還届出書が無効だったとしても借地権割合は控除できないとした事例

出典:TAINS(Z888-2485)(一部抜粋加工)
令和5年1月26日判決
3 本件各土地は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域に所在するものの、亡母とA社との間では、土地賃貸借契約書の作成時に、権利金の授受は行われなかったものと認められ、本件各土地の利用の対価である月額10万円という金額は、その所在地域における通常の借地権設定契約における地代と同程度かそれよりも低いものということができる。さらに、A社は、土地賃貸借契約書を作成した際、亡母に対し、将来本件各土地を無償で返還する旨約束したものと認められる。加えて、亡母とA社が、目黒税務署長に対し、無償返還届出書を提出していることは、亡母からA社に対し何ら経済的利益が移転していないとの事実を裏付けるものである。
4 したがって、本件各土地のうちA社を使用者とする部分につては、A社が本件マンション低層階の敷地部分として利用することにより現に一定の制限を受けるにとどまり、亡母からA社に対しては何ら経済的利益が移転していないと認めるのが相当であるから、その客観的な交換価値は、自用地としての価額の80%相当額を下回るものではないと認められる。
5 亡父、亡母、原告及びA社のいずれもが、本件マンション低層階の敷地利用権である地上権が存在するとの認識を有していなかったこと、亡母及びA社は、本件マンション低層階の敷地利用権である地上権が登記簿上存することを知った後も、これを前提とした行動は一切採らなかったこと、本件マンション低層階の敷地利用権である地上権の対価として権利金も地代も支払われていないことからすれば、仮に、原告が主張するように本件マンションの敷地部分にA社を地上権者とする地上権が設定されていたとしても、亡母とA社との間では、当該地上権の経済的価値はないものとして取り扱われていたものと認められる。したがって、当該地上権の存在により、同敷地部分の客観的な交換価値が、同敷地部分の自用地としての価額の80%相当額を下回ることにはならないというべきである。
6 原告の主張は、土地賃貸借契約が無効であるから、同契約を前提とする無償返還届出書の届出行為も無効であり、相当地代通達8条の適用要件を欠くという趣旨のものとも解される。しかし、無償返還届出書が提出されていることは、相続税法上は、土地所有者から借地人に対し何ら経済的利益が移転していないとの事実を裏付ける事情として考慮されるにとどまるから、無償返還届出書の届出行為が無効であったとしても、そのことが本件各土地のうちA社を使用者とする部分の客観的な交換価値についての上記認定判断を左右するものにはならない。

「土地の無償返還に関する届出書」の提出が無効だったとしても、取引実態から、借地権割合を控除した評価はできない、とされました。

想う相続税理士

「土地の無償返還に関する届出書」の提出により、「法人税」の課税が回避できても、「相続税」の課税負担が増える場合がありますので、ご注意を。