相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続財産の中に株式がある場合、その株式を申告するだけでは申告もれになる場合がある、ということについて、お話します。
「配当期待権」「未収配当金」の有無を確認する
財産評価基本通達(一部抜粋)
193 配当期待権の評価
配当期待権の価額は、課税時期後に受けると見込まれる予想配当の金額から当該金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額(特別徴収されるべき道府県民税の額に相当する金額を含む。以下同じ。)を控除した金額によって評価する。
「配当期待権」は相続税の課税対象になります。
この配当期待権とは何かというと、
財産評価基本通達(一部抜粋加工)
168 評価単位
配当期待権(配当金交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する日までの間における配当金を受けることができる権利)
です。
基準日に株主であれば(株式を所有していれば)、配当金をもらうことができます。
もらう前に亡くなっていてもです。
亡くなった場合には、相続人の方等が、そのもらう権利を相続で取得します。
それが「配当期待権」「未収配当金」です。
亡くなったのが、「基準日の翌日以後」かつ「株主総会決議日以前」であれば「配当期待権」、「株主総会決議日後」で配当金を受け取らずに亡くなったのであれば「未収配当金」として相続税の申告において財産計上することになるモノと思われます。
「配当期待権」って本当に相続財産になる?
「未収配当金」は、配当についての株主総会の決議があった、つまり、配当金を受け取ることが確定している、という段階でその財産権を財産計上するので、そりゃそうだろうな、と思われる方も多いと思います。
それに対し、「配当期待権」についてよく考えてみると、相続財産として計上するのは、まだ配当についての株主総会の決議がされていないという状態の場合です。
つまり、亡くなった時点では、いくら配当が支払われるか分からないのですが、それでも相続財産として計上しなければならないのでしょうか?
この点についての判決があります。
出典:TAINS(Z271-13636)(一部抜粋加工)
令和3年11月26日判決ア 原告は、亡乙は、本件相続の開始時に本件各配当期待権などという権利を有していないなどし、本件各配当期待権は、本件相続税の課税財産とならない旨主張する。
しかし、相続税2条1項にいう財産とは、金銭に見積ることのできる経済的価値のある全てのものをいい、基準日以降の抽象的剰余金配当請求権は、経済的価値のあるものといえる。
したがって、上記の原告の主張は採用することができない。イ 原告は、配当期待権を相続財産に含むこととすると、基準日の直前に相続が開始した場合と基準日の直後に相続が開始した場合とで、相続税の課税財産の額に差異が生じる結果となり、課税の公平性を欠くこととなる旨主張する。
しかし、配当期待権は、株式とは別個の経済的価値があるものとして捉えることができるといえるのであり、基準日以降、このような配当期待権が現に存在することになるのであるから、これを相続税の課税財産に含めて価額を評価しても、課税の公平性を欠くことにはならない。
したがって、上記の原告の主張は採用することができない。ウ 原告は、被告は配当決議の前後で課税の価額が変わることについて説明できておらず、また、配当期待権は、評価通達によれば、実際にされた配当金額から計算されるものであり、相続時に時価を計算することは不可能であり、このようなものは相続税の課税対象とならないと主張する。
しかし、評価通達193は、未収配当金の価額から源泉徴収されるべき所得税等の額に相当する金額を控除した金額としているのではなく、予想配当の金額から源泉徴収されるべき所得税等の額に相当する金額を控除した金額としており、予想配当の金額と実際の配当の金額が異ならない限り、配当決議の前後で課税の価額が変わらないことを想定しているものといえる。また、評価通達は、予想配当の金額を基に配当期待権の価額を評価しているが、このことは、配当期待権の時価を計算することが不可能であることを意味するわけではなく、合理的な評価の方法を示しているといえる。
したがって、上記の原告の主張は採用することができない。エ 原告は、被告の説明によれば、配当期待権と配当金が同一の経済的価値であることを前提としており、このことは、配当期待権と配当金の双方に課税することの不合理性を端的に示しており、配当期待権が被相続人の財産であるというのであれば、それが具体化して実現化した配当金も被相続人の所得とすべきである旨主張する。
しかし、これは、所得税の課税において、相続税との二重課税が許容されるかどうかという問題に関するものであり、配当期待権が相続税の課税財産に当たるかという問題とは別個の問題である。なお、所得税法67条の4は、配当所得について、被相続人に生じている未実現のものを相続人の下で実現した段階で相続人に課税するという課税の繰延べを規定していると解されるので、相続人に対し、配当期待権を課税財産として相続税を課し、相続開始後に実現した配当所得に所得税を課しても、違法な二重課税には当たらないと解される。
したがって、上記の原告の主張は採用することはできない。
相続財産として計上する必要がある、ということです。
「単元未満株(端株)」にも注意
相続財産の中に株式がある場合には、「単元未満株(端株)」の有無も確認しましょう。
想う相続税理士