相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の申告における養子縁組の注意点について、お話します。
相続税が「不当」に減少すると税務署長が出てくる?
養子縁組をすると本当に相続税が安くなる?上記の記事の中で、相続税の計算をする場合の養子の数の制限について、国税庁HP・タックスアンサーを引用しました。
その際、下記の部分は引用しませんでした。
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋)
No.4170 相続人の中に養子がいるとき
ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)または(2)の養子の数に含めることはできません。
これは、「不当減少養子否認規定」と言われるものです。
相続税法(一部抜粋)
第63条 相続人の数に算入される養子の数の否認
第15条第2項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(第19条又は第21条の14から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる。
相続税法基本通達(一部抜粋)
63-2 被相続人の養子のうち一部の者が相続税の不当減少につながるものである場合
被相続人の養子(法第15条第3項の規定により実子とみなされるものを除く。)のうちに法第63条の規定による相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる養子(以下63-2において「不当減少養子」という。)がある場合には、法第15条第2項に規定する相続人の数に算入する養子の数は、当該不当減少養子を除いた養子の数を基とするのであるから留意する。
この話とスゴく関係があるようで、実は全く関係のない最高裁の判決があります。
養子縁組自体の有効性について争った最高裁判決がある
出典:TAINS(Z999-5372)(一部抜粋)
平成29年1月31日判決
1 Aは、平成24年4月、長男B、その妻C及び上告人(B・Cの長男、平成23年生れ)と共に、Aの自宅を訪れた税理士等から、上告人をAの養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。
本件は、被上告人ら(Aの長女・二女)が、上告人に対して、養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求める事案である。
2 原審は、養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、被上告人らの請求を認容した。
3 しかしながら、民法802条1号の解釈に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
4 相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
5 そして、事実関係の下においては、養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
この最高裁の判決は、「当事者間に養子縁組をする意思がなかったから養子縁組は無効ですよね?相続税の節税目的だし。」という確認請求に対して、「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、それにより直ちに養子縁組をする意思がなかったことに該当しない。だから養子縁組は有効だ。」と棄却されたモノです。
それに対して、最初の相続税法第63条は、養子縁組自体の有効性については言及していません。
その養子縁組が、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められたとしても、それにより養子縁組も無効にする、なんて言ってません(税法の条文なんだから民法について口出しできません)。
養子縁組が有効だったとしても、相続税の計算において、その養子の方を法定相続人の数にカウントさせない場合がある(節税させない場合がある)、ということです。
最高裁の判決の上っ面だけを読むと、「相続税の節税目的で養子縁組をしても養子縁組は有効だ。だから、相続税の申告においても、相続税の節税目的で養子縁組した養子の方は必ず法定相続人の数にカウントできる。」と勘違いしてしてしまいそうですが、そんなことはありません。
民法に関する判決です(それなのに、相続税法の話と民法の話をゴッチャにしているネットの記事を見かけます)。
ですから、TAINSのカテゴリーも「相続税」ではなく「その他」になっています(さすがです)。
想う相続税理士秘書
その養子縁組が、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められれば、相続税の計算において、その養子の方を法定相続人の数にカウントできない(ダメと言われる)可能性(余地)はある、ということです。
想う相続税理士