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相続時精算課税制度は課税の中立性を確保したい国の考え方により創設された
課税の中立性が確保できない暦年課税贈与が主流になっている現状
相続税専門税理士㊙カード43【相続時精算課税と暦年課税の性質の違い】上記の記事で、「相続税の実効税率が30%の人が、実効税率20%で贈与をすれば、差額の10%分の課税を回避できる」ために「暦年課税による贈与は贈与税がかかりやすいのに富裕層に好まれる」とお話した
つまり、「相続で財産を移転する」場合と「贈与で財産を移転する」場合で課税の公平が保たれていない
相続財産の規模に応じて相続税の実効税率が変わる(財産が多ければ多いほど税負担が高くなる)ようになっているのに、贈与することにより税負担を下げることができるようになっている
国が相続時精算課税制度を主流にしたい理由
相続時精算課税による贈与は、最終的に相続により課税が完結する
2,500万円の特別控除額を超えれば贈与税が課税されるが、その贈与税は相続税の申告で精算される
トータルの(最終的な)税負担率は、相続税の実行税率である(正確に言うと、令和6年分以後の贈与に適用される基礎控除額の分だけ税負担率はそれより下がる)
贈与税は相続税の補完税としての役割(位置付け)を持つ
相続税の租税回避を防止するのが贈与税の役割である
つまり、相続税がメインであり、贈与税はサブである
相続時精算課税制度は、そのメインの相続税の税負担で完結する仕組みになっている
相続時精算課税制度が主流になれば、相続で財産を移転しても、贈与で財産を移転しても、税負担が変わらない(相続税の税負担で調整される)ので、課税の公平が保たれる
したがって、国は相続時精算課税制度を推進したい
そのため、令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度に絶対的非課税枠である基礎控除額を創設し(アメ)、暦年課税制度の生前贈与加算期間(生前贈与を相続税課税に組み込む期間)を延長した(ムチ)
相続税がかからないご家庭の場合には無税で財産の早期移転が可能
相続時精算課税制度を選択すれば、上記でお話したとおり「相続税の税負担で完結する」ため、贈与による財産の移転に際して課税される贈与税の税負担を気にする必要はなくなる
財産が相続税の非課税枠(遺産に係る基礎控除額)以下であれば、相続税はかからない
ということは、「相続税の税負担で完結する」相続時精算課税制度を選択すれば、税負担は(相続税も贈与税も)ない
夫の相続に際して法定相続人が3人(妻・長男・長女)である場合、相続税の非課税枠は
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
である
夫の財産が4,600万円だとすると、夫がその財産を持ったまま亡くなった場合、相続税はゼロである(4,600万円≦4,800万円のため)
仮に夫が長男に令和5年中に4,500万円の相続時精算課税による贈与をしたとする(夫の手元には100万円が残っている)
贈与税は
(4,500万円△2,500万円)×20%=400万円
となる
夫に相続が発生した場合、
相続時精算課税による贈与4,500万円+相続財産100万円=4,600万円
に対して相続税が計算されるが、相続税はゼロである(4,600万円≦4,800万円のため)
相続税の申告により400万円の贈与税は長男に還付される(イッテコイで税負担はゼロになる)
ちなみに、暦年課税(特例贈与)により4,500万円の贈与をした場合の贈与税は
1,780万円(約40%)
である
暦年課税による贈与であれば、約40%の贈与税を負担しなければならないのに、相続時精算課税による贈与であれば、税負担はゼロである
税負担はゼロで、相続まで待たずに早期に多額の財産の贈与を受けることができる